遅ればせながらポット出版の2冊を読了
出版コンテンツ研究会「デジタルコンテンツをめぐる現状報告」
永江朗「本の現場」
いずれも
私のように出版とウェブと、その両方の端っこに
腰をおろしている人間にとっては
「現状報告」あるいは「現場」というべきもので
ことさら耳に新しいことが書かれているわけではないのですが
・そうは言っても気づいてないことがあるかも。というお勉強意欲
・私のお客さんには“驚きの新状況”なことが多いのも事実なので
対クライアント雑談のケーススタディ。という実用的意味合い
そんなこんなで購入。
ちなみに後者は
小売(=本屋さん)が「値下げしてでも売りたい」と思えば
メーカー(=出版社)小売希望価格から自由に値引きしてもいいですよ、
という“非再販”マークがつけられていることで
出版業界でちょっとだけ話題になった商品ですが
当然のように定価で販売されておりました。
あ、そうか。
本屋さんで値下げ交渉すればよかったな。
「ねーおじさーんもうちょっと安くならないのーねーねー」
「しょうがないなあ、じゃあ50円だけ引いとくよ」
以下、ランダムに感想を。
デジタルコンテンツをめぐる現状報告
■「紙」にとらわれないコンテンツ
マウンテンバイクを流行らせたのも『BE-PAL』です。
言ってみてー。メディアが
カルチャーを“無かったところに作り出す”というのは
自慢しがいのある経歴だと思う
出版社がポータルサイトなどにBtoBでコンテンツを提供するのも、最終的には自分自身の首を絞めることにつながるんじゃないかと思い始めています。(中略)そりゃ、契約すればなにがしかのお金がそのIT企業から入ってきますよ。だけど、それを利用している人たちは、そのコンテンツは無料だと思って使っているわけです。
無料でコンテンツを使うことに慣れ親しんでいるユーザーにも
抵抗感を抱かせないようなマイクロペイメントで攻めて行くしか
方法は無い、ような気が個人的にはします。
■電子書籍流通の最前線
僕はリットーミュージックを設立したとき、まだJASRACに委託されていなかった洋楽アーティストの楽曲をピックアップし、直接サブパブリッシャーと契約を結んで、独占的に出版権を獲得したんです。(中略)あっというまにリットーミュージックは有名になって、洋楽の楽譜出版の世界でNo.1になりました。
言ってみてー。
個人の発想が楽譜出版ビジネスを成立させたとは
迂闊にも認識していませんでした。
かっこいいなあ。
本の現場
■情報の無料化
あるとき、郊外の書店にいたら女子高生たちの会話が聞こえて来た。ひとりが「この本、買おうかな」とコミックスを手に取ると、もうひとりが「やめなよ。ブックオフで買えばいいじゃん。ここで買うと損するよ」と言った。(中略)本に対する値段の感覚、いくらぐらいだったら適正だと感じるかという値ごろ感が変容している。これは家電製品をメーカー希望小売価格で買うのは損だ、という感覚と似ている。
こないだブックオフで男子大学生がふたり、
「高えなこれ、半額にしかなってないよ」
「毎月1日とかに100円均一になったりすんだよ。
俺はそんときにまとめて買うよ」
って言ってましたよ。
彼らに共鳴する部分ゼロ、とは言いませんが
さすがにトホホでした。
■インタビュー 本棚が町へ出て行く
永江……幅さんは商業施設以外のところでも、本に触れる機会をディレクションしていますね。最近はどんなところを手がけましたか。
幅……大阪、千里のリハビリテーション病院をやらせてもらったのがいい経験でした。(中略)その病院でふだんのリハビリに使っているのは小学生の国語ドリルみたいなやつなんですが、いい年してまともにやってられるか、という感じが正直、現場にありました。だけど谷川俊太郎の「接吻の時」っていう詩があって、「今日は『接吻』を書いてみませんか」って持って行ったら、ある書き取りのリハビリ嫌いのおじいちゃんも「接吻のためだったら頑張るかあ」って言って、頑張って書き写すんですよ。
電子書籍のマーケットとして
病院っつーのはきわめて有望だろう、と私は
思っているわけですが。
なんなら病院のサイドビジネスとして
電子書籍プラットフォームを持つのもありか、とかね。
このあたり非常に興味深い。