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やわらかであたたかでまとわりつくもの。「母なる証明」


五十嵐貴久の最新文庫化作、「パパとムスメの7日間」。
パパとムスメのカラダとココロが7日間入れ替わる、っつー
先行類似作がとても多いジャンルにいまさら参入?
なんて無謀な。と読むまでは思っていたのですが
10代後半のムスメを持つ
40代後半のオッサン
という顧客セグメンテーション戦略が反映されている
一種マーケティングの産物ともいうべき小説なんですね。

会話とか話の運びとか
さすが、うまいなー。と思いつつ
全体を覆う(作者が意図しているかどうかは別ですが)
ここを押せば音が鳴るんでしょ。的な
デジタル感が鼻について
ほぼターゲット層に属している、
とてもロイヤリティーの高い読者
を自認するわりには
いたって淡白に読了。

一方、ママとムスコの日々を描いた
ポン・ジュノの最新作「母なる証明」。
お気に入り俳優ソン・ガンホの不在は残念でしたが
評判にたがわぬ力作。

「狂気と言っても過言ではない、狂おしいほどの母の愛をテーマにしている」
「映画の焦点となるのは、一心に息子を思う母の常軌を逸した心理と行動だ」
「この映画はサスペンスであると同時に、子を想う母の狂おしい愛情を描いている」

云々と
作品を評する際しきりに言及されるキーワード、狂気。

同音語(=凶器)や
先行するmother and son relationshipを描いた古典
「サイコ」などの連想から
ともすれば鋭角な印象を残しそうなものですが
この作品が観客に与える空気は
もっとまるく、やわらかで、まとわりつくような
ナマナマしい“何か”で。

・食事のたび、いちいち鶏肉の骨をむしって渡される
・立ち小便中にお椀一杯の漢方薬を飲まされる
・警察に保護されるや差し入れを持って駆けつけて来る
・夜帰るのが遅いと携帯に電話が掛かる
・一緒の布団で寝る

映画のトジュン青年は既に成人して久しく
その彼の世話を5歳児のごとく焼く母と
概して5歳児のごとく世話を焼かれるに任せる息子の姿は
決してふつうではないのですが
母によく“かまわれた”息子時代のある身としては
それを狂気のひとことで言い捨てるのは
……やっぱり違う気がする。

そして、その
映画という形態でしか表現できない
いたたまれない感じ/いたましい感じ/居心地のよくない感じ
が映画館を出ても背中にしみついているような気がして
思わず振り返ってしまうような、そんな2時間の体験でした。