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編集者が編集するのは本だけじゃない! ○○もだ!

ウェブも電子書籍もDVDもCDも編集しちゃうよでもいちばん仕事多いのはけっきょく紙

東京ステーションホテルのリニューアルオープンをお祝いする気はある

内田百間読者歴30年なので
ひゃッ先生と縁浅からぬステホテの復活は
そこそこ感慨深い出来事なのですが
ホテルの公式サイトに
「語り継がれるホテル-東京ステーションホテルの歴史-」
てな、あら、ずいぶん上から来たわね。
というノリのテキストを発見しまして。

1915年、東京駅開業の翌年、東京ステーションホテルは客室数58室、宴会場を備えたヨーロッパスタイルのホテルとして開業し壮麗な建築と最先端の設備で、国内外から数々の来賓を迎えました。(略)幾多の文人にも愛され、江戸川乱歩の「怪人二十面相」や内田百間の「阿房列車」では客室が舞台に。昭和30年代には、川端康成松本清張も滞在し執筆しました。
http://www.tokyostationhotel.jp/about/index02.html

おいちょっと待ってくれ。

阿房列車」って全部で15編あるんですが
基本は乗り鉄の話なんです。

列車に乗ることが楽しいのであって
そもそも「目的地」すら存在しない。
たとえば大阪まで行くことにする、
着いたらタッチアンドリターンで
夜行列車で帰ってきたいぐらいのところを
それだとかえって高くつくから
仕方なく大阪に1泊します。

しかし帰りは
「帰ってくる」という
「意味のある」行為に過ぎず
「阿房」という崇高な行為ではない、
真の意味で「阿房列車」コンセプトを体現するのは
往路だけなのである。


……というような百鬼園先生の主張は
読者なら当然知っているわけで
さて、そんなふうに
「乗る」ことに無上の価値を見出していた鬼園先生が
東京ステーションホテルの「客室を舞台に」何か書いた?
阿房列車」で?


おかしいなあ、と思って
あらためて15編引っ張り出してみたんですが
何を指しているのか、ついにわかりませんでした。

 東京驛のホテルだから汽車や電車の出這入りが眺められる。私の部屋のある側はホームに近い。冷房の為に閉め切つた窓のカーテンを片寄せると、八重洲口の側のビルに仕切られた狭い空と、その下に列んだ七本か八本のホームの屋根ばかりが見える。その竝行線に列んだ屋根と屋根の間に、這入つて来たり出て行つたりする汽車や電車の上部だけが、するすると辷る様に動いてゐる。一番こちらの窓に近いのは中央線電車のホームである。時時警笛の声は耳に傳はるけれど、その外の物音は何も聞こえない。部屋の中は不思議な位静かである。
  -「驛の歩廊の見える窓」(「東海道刈谷駅」から)

 私は仕事の都合で、歳末の半月ばかり東京驛の鐡道ホテルに泊まつてゐたが、その間のある晩、ラヂオで米川文子氏の「冬の曲」の放送があることを知つたので、時間の前から食堂に出かけて食事をしながらその番組になるのを待ってゐた。
  -「ホテルの冬の曲」(「鬼苑横談」から)

 次の年の第二年目には、向うであらかじめその覚悟を決めたらしく、決死隊のボイが出て来て、九時になつても十時になつても澄ましてゐる。遅くなつて済まんな、と云ふと、いえ構ひません、どうぞ御ゆつくり、いつ迄でもと云つた。
 さう云ふ風にしてくれ出してから何年目かの三日の晩、例の通り遅くなつて部屋の外へ出たら、明かるいのは今までゐた宴会室だけで、長い長い廊下は真暗がり、ボイが一人走り出して、通つて行く廊下の電気をパチパチと一つづつともして行つた事もある。
  -「御慶十年」(「けぶりか浪か」から)

 「当日の朝起きられなかつたら、それ迄です。それではそちらもお困りだらうし、私も無責任の様で面白くない。前の晩から出掛けて、驛の階上のステーシヨンホテルへ泊まりませうか」と云つたら、諸君大いによろこんで、是非さう云ふ事にしてくれと云ふ。
 しかし又考えて見るに、寝つけない所に寝て、翌朝あつさり起きられるか、どうか疑はしい。矢張り何でも馴らさなければ、事はうまく行かない。祝賀の行事が始まる五六日前からステーションホテルへ這ひ込み、毎晩寝て、毎朝起きる順序を繰り返してゐれば大丈夫かも知れない。それがいいに違ひないけれど、さう云ふ事をすれば、先方も迷惑であり、私だつて迷惑である、だれが金を拂ふか知らないが、私は拂ひたくない。鉄道の方で引き受けて、拂つたお金が餘り高かつた為に、運賃値上げの原因なぞになつては、人人に合はせる顔がない。まあよしておきませう。
  -「時は変改す」(「無伴奏」から)


や、こういう具合に
いわゆる百間随筆で
東京ステーションホテルを題材にした話は複数あるんです。
だけど「阿房列車」には無いんじゃないだろうか。

と、もやもやしておりまして、結果なんだか
めでたさも中ぐらいなりステンション。