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我が家の小学4年生のお友だちで第一人称が「ぼく」な女子、Yちゃんのお話

はるかぜちゃんこと春名風花(敬称略)が
朝日新聞の需めに応じて書いた
いじめヨクナイ文章を
各地の小学校の先生が転載して
(たぶん「道徳」の)授業に使っている、と。

その際、原文第一人称が「ぼく」なのは
教育的見地に照らしヨロシクナイと
思われるからか、
執筆者であるはるかぜちゃんには無断で
「わたし」に改変されているらしい、と。

その改変したい気分は理解するけど(←大人か
無断で変えるのはやめてくれないかなあ。
とはるかぜちゃんが言っていたので
http://matome.naver.jp/odai/2134929420487576201

じゃあ「ぼく」をやめたバージョンを
転載可として
どこかに置いておけばいいんじゃね。
と思ったついでに
我が家の小学4年生のお友だちで
第一人称が「ぼく」な女子、
Yちゃんのことを連想しました。

その子がもし自分の子だったら
“女子の一人称が「ぼく」なことで
 立つさざなみ”について
どう話すかなあ、と思ったんです。


はるかぜちゃんの「ぼく」呼称は
なんとかいうフィクションの登場人物にあこがれて。
ということだそうですが
Yちゃんの場合、
もうちょっと根は深いところにある。

1~2年生のときの担任の先生とウマが合わず
あまり友達もできず、
いやいや学校に通っていた当時のYちゃん。
唯一、彼女の味方をしてくれていた
保健室の先生がたまたま
ゆったりした口調で話すYちゃんを前に
「あら、のんびりしていいわねー」
ぐらいのことを言ったんですって。

それ以降、彼女は
学校における自分のキャラを「創った」。

そのタイミングで、一人称も
「ぼく」で固定されたんだそうです。
当時7歳。

つまり、素のままの自分を出すことで
傷つくことが多かったのに懲りて
“創造したキャラクター”という殻で
武装している。
その一端が一人称「ぼく」なわけ。

……という事情をふまえれば、
軽々に
「女の子がぼくって言わないよ!」
とは言えませんわね。

テンポが合うんだか、
たぶん最も彼女と仲が良いクラスメートの
ひとりが我が家の4年生で
そのYちゃんの物真似が頻繁に
登場するものだから
いまでは私もYちゃんの真似ができるぐらい。
コツはね、大山のぶ代を0.8倍ぐらい
ゆっくり再生すること。
「えええええええ。
 ぼく。そんなこといわれても。
 こまるなああ」
……すみません、
ニーズの無い物真似メニューを
提供してしまいました。

(そのYちゃんがうちに遊びに来たら
 すごい早口になる、
 というエピソードには笑ったんですけども。
 「Yちゃん早口なんだね、ってびっくりして
  言ったら『あたりまえだよ』って
  言ってた」だそうで。結構なこっちゃ)


女の子が
ぼく
と自分を指していうこと
および
それを聞かされる周りの人間の心が
それぞれに抱いている
「常識」でオサマッテいる
水平な状態に動揺を与えること。

について、考えると
西加奈子の「きりこについて」
という物語を思い出しちゃう私。


前半と後半で、まるで異なる物語が
主人公のきりこという女の子を軸に
展開していくのですが
別に、そのきりこ嬢の一人称が
ぼくなわけではなく
物語中にそういう女の子が出てくるわけでもない。


人が持っている「常識」から外れたコトを
なにかとやってしまう女の子は出てきて
彼女が引き起こす波紋が描かれます。

彼女自身は、
自分の行動がひとの心に投げかける
不穏な影響についてはハナにもかけません
-なぜなら-
彼女は自分が「正しい」と知っているから。

より正確にいうなら
「正しい」か「正しくない」か
判定を下すことができるのは本人だけである、
ということを
彼女が知っているから。

そして、
他者の意向を気にしないことと
それでもなお、
他者の意向を気にかけることの間には
なかなか無視できない違いがあるんだよな。
てなことが、じんわり描かれていて

……って主人公のきりこについて
まるで触れず、恐縮ですが
これ、北上次郎×大森望の対談
「読むのが怖い!Z」で存在を知って

読むのが怖い!Z―日本一わがままなブックガイド

読むのが怖い!Z―日本一わがままなブックガイド


気になって読んだら
(だから最近よ、読んだの)
わー。なんて傑作なんだ!
対談で何て紹介されてたっけな。
と読み返したら
……あれ? これだけ?
ってなった1冊なんですが


 北上 僕、猫派じゃなくて犬派なんですよ。
    それで、「猫かよ」と思いながら読ん
    だら、それまでの西加奈子のタッチ
    と、これ、違うんじゃない?
 大森 全然違います。だって今回は、猫の
    一人称ですからね。わりとあっさりめ
    ですね、今までのコテコテ感がなく
    て。
 北上 ねえ。細部がね、結構いいんですよ。
    たとえばさ、猫がどういう生物かとい
    うことに猫自身が言及するディテール
    があるじゃない。それがすごくおもし
    ろい。
 大森 うん。猫がね、自己分析するんです
    よ。
 北上 たとえば、猫の知能指数は、本当は
    人間の100倍ぐらい高いのだ、と。
    だから、これから何が起きるかも、猫
    は全部知ってるんだと。知能指数の
    低い人間は知らないらしいと。ホーキ
    ング博士が何か発表したときに、人
    間たちはびっくりしたらしいけども、
    猫は「今頃気づいたのかよ」って言っ
    たっていう。もちろん嘘八百なんだけ
    ども、ああいうディテールがすごくい
    いよね。


ええと、Yちゃんがいつか
「きりこについて」
読むときがあるといいな。
なんならはるかぜちゃんも、うちの子も。
というより
遅かれ早かれ
自分のジェンダーに向き合うときが来る、
すべての女の子たちが
読むといいな。


男子は……おまえらは
40超えたぐらいで読んで
ようやく身にしみるんじゃないか。
そしていろいろ思い返して反省したり
恥ずかしくなったりすればいいよ(=自分