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40.影の如く


初出:1955〜56年サンデー毎日
参照:中公全集(9)(1961年1月)
時代設定:1864年3月
 河原町長州藩邸に、鞍馬天狗が顔を見せたのは、久しぶりのことだった。
 (=禁門の変長州藩邸が消失するのは1864年8月)
 「竹の子が出てやがる。」


目的のためには手段を選ばぬ官僚と、怪しげな術を駆使する妖僧。
そして彼らが選んだ最強の剣客。
狙われた鞍馬天狗の命運は……。


思索するひと/行動するひと、両面を持つ鞍馬天狗ですが
これはどちらかというと“アクション寄り”の中編。
もちろん、ふとした時に

 いつも感じることだが、町の人たちの生活は、平常のもので変わりない。
 そして、彼が向かい合っている城や町奉行所、所司代屋敷の方角では、静かに見えながら、陰謀めいた暗黒の力が動いている。それが政治というものだと考えるのは、一部の人間たちだけなのである。奇怪のことであった。

などと、つい思ってしまうあたりが“インテリ”っぽさの表れ。
それはともかく
全編通じて戦い続ける彼の姿を堪能するべき作品といえるでしょう。


ちなみに、鞍馬天狗が戦う相手ランキングで最上位に来るのが
無名の新撰組隊士各位であるのは動きませんが
次に来るのが近藤勇を筆頭に、実在する人物
その次が(本作にも深い印象を残す人物が登場しますが)
名前を与えられている非実在人物。
見廻組隊士各位、
佐幕藩の気の毒な藩士諸子、
下級官吏
アウトローな人々、
云々。と来て、
ランク表のずううっと下のほうに、

犬。

もいると思うんですね。
アクティブ鞍馬天狗の集大成というべき本作にも
そういうわけで当然ながら、ワンコ登場。

 急にどこかで犬の吠える声が起った。走って出て来て、鞍馬天狗に吠え立てた。
 小牛ほどある大きな犬で、飛びかかって来ることも考えられたので、鞍馬天狗は犬の目を見て、にらみ返した。

ちょっと待った。

成牛のサイズが700kgとすると
いくら「小牛」といえど、200kgはあっていいですよね。
でも、超大型犬とされるセント・バーナードでも100kg弱、という事実を考えるに
さすがの鞍馬天狗もビビったあまり
実態以上に大きく見えたんじゃ説。がここに確立されるわけです。
(ちなみに作者からちゃんと名前ももらっています。「権太」)

なお、作者・大仏次郎といえば知る人ぞ知る愛猫家で
赤穂浪士」で米沢藩上杉家の江戸家老、千坂兵部を登場させた際
自身を投影して猫好きというキャラを付与したら
その要素があたかも史実のように流通して
後続作品に影響を与えたりもしたぐらいなのですが
犬の描写に関してはさすがに(ry
というところですね。