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34.風とともに


初出:1951年オール読物8月号
参照:中公決定版(11)(1951年11月)
時代設定:1868年1月
 一旦京をひき払って大阪へ退いた幕府の軍が続々と、京へ向って上って来る
 (=鳥羽伏見の戦いは1868年1月3日に開戦)
 「暮の疲れもあるし、元日二日の廓の夜は静かになるものだ」


時代設定にあるとおり、鳥羽伏見の戦い前後の数日間
鞍馬天狗が何を思ってどう行動していたか、を描いたもの。
杉作も吉兵衛も出てきませんが
ふとした場所で、古門前の目明し長次
の妾(本作では「おえん」)とは遭遇して次のような会話を交わしています。

 「近藤勇土方歳三に会うことがあったら、おれから宜しくと言ってくれ。」
 「畏まりました。お目にかかりましたらね。でも、そうはまいりますまい。」
 「あいつらとも、まったく遠くなった。随分もとは仲が善くて、両方で追いかけっこしたものだったがな。」


歴史が示すとおり
この戦いを境に、それまでの公権力は一転「敗者」に
鞍馬天狗も所属するところの反政府軍が「勝者」に
それぞれ対称的な道を歩み出すことになるわけですね。

 人間が計ったと言うよりも、歴史がその辿る道を決めていたように見える。

題名といい、エンディングといい
ひょっとしてこれで鞍馬天狗の物語は書きおさめ……
と作者が思っていたかもしれない、と想像したくなるような、
(個人的には全作品中ベスト5に入れたいぐらいに)内容濃い短編です。