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29.新東京絵図


初出:1947〜48年苦楽
参照:徳間文庫版(1990年5月、解説都筑道夫)
時代設定:1869年7月
 「江戸が東京と改められたのが、前の年、明治元年の今時分、七月のことだった」


国営企業が独占していた事業に
ベンチャー企業が敢然と戦いを挑みました。
到底勝ち目はないと思われていたけど
外資の参入をヨシとしない国内投資家の思惑などあって
ついに念願の上場を果たし、既存大企業を倒産に追い込んだぜ。
それが1868年のことで
直近で入社したような社歴の浅い人間までもが上場益を堪能するなか
匿名創業メンバーだった鞍馬天狗は相変わらずのフリーランスで……

ていう話で合ってますかね明治維新

そのノリのまま比喩を進めれば、「新東京絵図」は
・上場した面々から誘われてもしらんぷりな鞍馬天狗
・倒産した旧大企業に夢を見る連中に名前を騙られ
・しかし彼は新時代を背負うべきは次世代だと考えているので
・自分は事件を現場まで“見に行く”けど
・最終的なゲタは若手に預けるスタンスを貫きとおす

という話ですね、わかります。

そういえば
ソーシャルメディアによって政治の主体が移りつつある
21世紀のなんとか革命的な事象について、
鞍馬天狗が考察するシーンもありました。

 町の人間には相変わらず活気がある点は、直介も認めていた。しかし、このごたくさして秩序も行儀もない町の人間が、何かの勢力になって政治を動かすようになるとは、今のところ、とうてい考えられない気がすると話してみた。
 「それァそうだ。手間はかかるさ」
 と、雄吉は答えた。
 「永い間、政府に対して卑屈にして来た癖が抜けてしまうまでにも時間はかかる。」

(鞍馬天狗は海野雄吉と名乗っています)

さて。
正気に戻って本作を解説するなら
徳間文庫版巻末に都筑道夫が書いているとおり

明治維新直後の混沌は(執筆当時の)第2次世界大戦後の混沌に等しく
・官軍を迎えるしかなかった人々のように、占領軍をわれわれ日本人は迎えざるをえなかった
・ジャーナリスト鞍馬天狗の本領は、そうした現実をまずは客観的に描くことにあり
・次いで「敗れたわれわれ」は何を為すべきか考えるフェーズへ導くことにあった

ぐらいになりますか。
シリーズ全47作品中
いちばん寿命が長いのはこれじゃないかの戦い。において
11.角兵衛獅子」と争い得る唯一の作品が、この「新東京絵図」。
と断言していい傑作です。