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25.薩摩の使者


初出:1941年週刊朝日
参照:中公決定版(12)(1951年12月)
時代設定:1868年3月
 「西郷はもう駿府に出て来ているというじゃないか?」
 (駿府城山岡鉄舟西郷隆盛と面談したのが1868年3月8日)


舞台が横浜だったり
勝海舟がぷりぷり怒ってたり
どうせ俺は英語もフランス語も話せない、って鞍馬天狗がスネたり
なんかいつもとは違う感が漂う短編。

・締切はあってないようなお仕事です
・まずあなたの目で現場を見てください
・具体的なお仕事内容は追ってお知らせいたします

ってアバウトな依頼で横浜に出張したら
発注を受けたクライアントの
直属の部下というひと(=薩摩の使者)がやってきて

・ご依頼の件どうなってますか
・けっこう急いでるんですけど
・ええっ、まだ何も成果物ないんですか

って言われてさすがの鞍馬天狗もムキー。ってなりかかるけど
クライアント(=西郷隆盛)のことは信用してるし
やりますよやればいいんでしょフリーはつらいよ。
って話なんですが(だいたい本当)


タイトルを見ても、作者はもうちょっと
薩摩カラーを本文で出すつもりがあったんじゃないだろうか、と
思わないでもなく……というのは、
大仏次郎が「薩摩飛脚」というタイトルで
都合3度も小説を書いているから、です。
しかも本作の発表時期が
未完に終わった一度目と二度目の間。

とはいえ
領内に入った他藩の人間を機密保持の観点から出国させなかったので
薩摩飛脚=「行ったきりで帰らないこと」
という、詩的イメージのある単語に即した3つの作品群と本作とでは
まるで似ていないので
むしろタイトルの付け方が間違ってる、と考えたほうがいいのかも。

 「何をしているかといわれると、自分の力で出来ることをしているというよりほかはない。だが西郷さんも、人を見ずに、ひどいところへ寄越したものだね。私は剣一筋を頼んで働いて来た男なんだが、この横浜というところでは、刀を抜いてはならんのです。私は英語も喋れないしフランス語も単語よりほかに知らぬ。やむを得ず、河童が陸へ上ったように口をきかずにいる。そこへ腰の刀にも物をいわせることが出来ぬとは、何をしてよいか見当がつかぬでしょう。まるで、これは島流し同然だよ。はははははは。」


フリーター、家を買う。
ふうに改題するなら
鞍馬天狗、グチを言う。
というあたりが順当なんじゃ……。