編集者が編集するのは本だけじゃない! ○○もだ!

ウェブも電子書籍もDVDもCDも編集しちゃうよでもいちばん仕事多いのはけっきょく紙

本の適正価格を考える(そしてふつうの結論へ華麗に着地する)


話題になっているトゥギャッターの
ただ、「読みました」と言いましょう(笑)
コメント欄に


わたしは、借りて読んでくれたかたに、いくらなら適正だと思うかこっそり聞きたいくらいです。価格のつけかたは書く・売る側の事情です。買ったひとにとってはその価格が適正以下で、「買わなかったが読んだ」というひとにもどこかに適正価格があると信じています。そう思うと、大きな声ではいえないけど気分わるくはないです。


というポストが(ツイート数0というアカウントから)されていて
書き手立場からの
こういう主旨の発言は珍しいなあ。と興味深かったので
自分の中で追求してみました。
いわく、

問 その作品を定価で買う気になる/なれないの線引きはどこにあるか。


私の場合は、次の3つに分類できそうです。

1. 作品と思ってカネ払ったら商品だった、
 という過去のカタキを討っているケース
2. 販売者のダンピングが激しく
 「最安値で買えるかな?」と挑まれてる
 としか思えないケース
3. 自分の考える適正価格を
 大きくかけ離れた値付けに
 抗議したいケース



1.はまあ、特殊な事例なんですが
とある作家のとある作品を読んだら
けっこう面白かった、
次に別の作品を読んだら1作目ほど感心しなかった、
さらにその次に読んだ作品は
小説というパッケージングがされているけど
すばらしきマーケティングマインドで構築された、
読者の直感を
(ひいては物語というフォーマットを)
舐めているとしか思えない作品だった。
これはイカン!
何がイカンって、それでも面白いところがさ!

眼高手低ということばには
「志」という要素は含まれてないけど
(お目も高いしお手手も上手なの、その作家)
そして
小説を含め
出版という業種に最も欠けているのは
マーケティング観点である、とは
個人的にも共感する意見ですけど
その作家の
登場人物をこう動かせば
読んでる奴らはこう思うだろ。
この題材で書けば話題になる。
このユーザー層に訴求するネタはこれ。
云々という考え方が
透けて見えたような気になって
(←いうまでもないですが、主観です
 お ま え に 還 元 す る カ ネ は ね え !
という判定を下した私なのでした。

本当の意味で“技巧を凝らす”なら
マーケター魂は
作品の裏に注意深く押し込めて
気づかれないようにするべきじゃないかなあ。

たとえば有川浩って
「読者が求めているモノ」
をジャストに提示できるところが
マーケティング指向のアンテナが
抜群に鋭敏な証拠だと思うんですけど
作品中、彼女の思いがホトバシる瞬間があって
そこが
設計図を越えた感動につながる・大きな理由
のような気がします。

で、その1.の作家の作品は
(「作品」じゃねー「商品」だよ)
マーケティングの参考資料としては役に立つので
手元に置いておきたい。
だから最安値でしか買いたくない、のココロ。



2.は要するに
単行本〜ノベルス〜文庫
というサイクルを
出版社が自ら短縮している昨今の風潮を受けて
まさにここが理由で「文庫しか買いません」な私が出来上がっているのですが
その話の前に
なぜ出版社は上記のような
1アイテム多形態商売を続けるのか
という件をちょっとだけ。

  たとえば1500円の単行本を1万部印刷すると
  その瞬間に、1500万円の売上が計上されます。
  売れたかどうか、ではなく
  印刷したという行為に基づく慣習があるから。
  (この段落、数字も機構も簡略化して述べています。
   ご承知おきください)
  実際にお金を払って買う読者が
  最終的に2000部相当しかいなかった場合
  先に皮算用した1500万円のうちの1200万円を差し引いて
  粗利(たった300万円!)が確定するわけですが
  そのタイミングで
  同じ作品を1000円のノベルスにして3万部印刷すると
  3000万円の商いがまた(刹那的に)成立する、
  700円の文庫を5万部すれば3500万が云々。


そう、出版とは
「求められている部数を刷って売る」
商売ではなく
「万一の僥倖を望んで刷って当たればラッキー、
 当たらなければ?
 次のを出すよ出し続けてやんよ」
という商売なのです。

ええ、おわかりいただけましたかね
出版が自転車操業です
というこの意味。

つまり
「いきなり文庫」
あるいは
「単行本と文庫が同時発売」を
出版社がなぜあんなに
「われながら大事件!」
ふうにドヤ顔したがるのか。

あれは、売上を計上するチャンスを
自分たちの判断でフイにしてやったぜ。
ワイルド(ryという文脈で
ご覧いただくべきなのです。

そうやって
「ちょっと待てば安くなるんでしょ」と
夕方のタイムセール間際のような心理に
読者を追いこんでしまった結果
どんどん単行本が売れなくなる今日の現象を招いたことは
自業自得といわれても、まあ仕方がないっす。



最後の3.は
まさにケースバイケースとしか言いようがないですね。
映画は1800円ですよ
お酒は4合瓶で1200円(という目安で買ってるん)ですよ
競馬は下手するとすげー金つかっちゃったりするんですよ
(おい、追求すんな)
それに比べて
文庫本1冊700円って安いわー。
というのが、冷静なときの私の平均的な感想なんですが

・おまえ700円って高すぎだろせいぜい300円だよ
・おまえ700円って安すぎだろ3000円でも買うよ!
 いや、言ってみただけだよ?

造本だったり
解説だったり
帯だったり、
あるいは本そのものではなく
販売している小売(=本屋さんのことね)
の熱意に感激して
お財布に手がのびることだって、ある。



興味が持てなければ無料でも読まない
のが本というものだと思うので
「適正価格」
が決められるわけはないですけど
上述3項目を裏返してみると


1. 作品そのものが熱量を持っていること
2. 経営都合ではない、作品の価値主張としての
 「俺○円」なこと
3. ユーザーの既成観念を刺激しないレンジに
 おさまっていること


ばくぜんとしてますけど、そんな感じでしょうか。