編集者が編集するのは本だけじゃない! ○○もだ!

ウェブも電子書籍もDVDもCDも編集しちゃうよでもいちばん仕事多いのはけっきょく紙

400年前の南有馬町乙。で起きたのはほんとうに「昔の話」か■飯嶋和一「出星前夜」

出星前夜 (小学館文庫)

出星前夜 (小学館文庫)


飯嶋和一「出星前夜」が
大仏次郎賞を受賞、という報に驚いたのは
そうか、もう4年も前のことですか。

驚きの内訳は、そりゃもちろん
「もらってくれるんだ!」
というものですよjk。

思えば大仏次郎賞も
ずいぶん受賞作にブレのある文学賞
(とwikipediaを見ながら)
・功労賞的なニュアンスが強い年度
・なんとなく話題になりそう。って理由で
 授賞決めてない? と疑われるような年度、
・誰からも文句出ないことがコンセプトですか。
 と言いたくなる年度

云々
大仏次郎の愛読者を
かれこれ30年以上、続けている身としては
微妙な笑いが
片頬に浮かばないではいられません。

そもそも大仏次郎という名前を知る読者が
ほぼ居ないこのご時世で
依然として、その名を冠する文学賞
存在し続けているのも
ある意味で作家・大仏次郎
「実力」の証左ではあるのですが

小説、ノンフィクション、歴史記述など幅広い分野で活躍した作家・大佛次郎氏は、朝日新聞紙上に「天皇の世紀」を連載中に死去。その業績をたたえて、1973年に創設された「大佛次郎賞」は、その形式のいかんを問わず、優れた散文作品に贈られる。

「出星前夜」読みながら思ったのは
これほど大仏次郎賞という賞にふさわしい作品も無いし
この作品に賞を謹呈する光栄に浴したのは
むしろ大仏次郎賞にとってめでたい。
ということでした。

・読者を作品世界に誘い込むパワーとか
・その世界に充満する“空気”の濃密さが
 まがまがしいまでに提示されることとか
・この作品が評判になって……という類の色気を
 まるで感じさせない作者のストイシズムとか

“作家として完成されてからの大仏次郎”と
飯嶋和一に共通するものは多い、と思うのですが
作品単位で似ているものを挙げるとすれば
天狗倒し」~「鞍馬天狗敗れず」ですかね。
(この2編、作品としては別モノながら、
 鞍馬天狗というフィクショナルなキャラクターを
 生麦事件という史実に投入して
 彼の視点から歴史を見つめなおす試みとして
 明白につながっている連作です)

「出星前夜」が取り上げた「島原の乱」も
めでたしめでたしでは終わらないことを
(とwikipediaを指しつつ)
読者の大半は知っているわけですから
この先、どうなる? という興味ではなく

21世紀に生きる我々が
その時(17世紀初め)
その場所(長崎県南島原市)に居たら
何を感じたのか、どう行動しただろうか。

登場人物かわいそー気の毒ぅぅ
的な、他人事としての感想ではなく
読者自身の内側との対話を促して
読み終わるころには
夜半しんしんと降り積もる雪のように
「うおおコトバにならない思いが
 いつのまにか心の中に
 溜まってるんですがああ」
と、ブログエントリーを
書いたりしたくなるわけです←イマココ


そうだ、あやうく言い忘れるところでしたが
作品冒頭に当時の島原の地図をつけ
上下巻にしてもおかしくない700ページを
1冊本として刊行した、小学館文庫は
実にすばらしい仕事でした。
××文庫だったら絶対こうはならないからなッ!