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編集者が編集するのは本だけじゃない! ○○もだ!

ウェブも電子書籍もDVDもCDも編集しちゃうよでもいちばん仕事多いのはけっきょく紙

11.角兵衛獅子


初出:1927〜28年少年倶楽部
参照:朝日文庫版(4)(1981年10月、解説小野耕世)
時代設定:1865年3月
 「ついおとといの晩は、壬生のお屋敷へ、そいつが、たった一人で斬り込んだというぜ」
 (新撰組屯所が壬生から西本願寺に移るのは1865年3月)
 「二本松の薩摩屋敷にいた西郷吉之助は、せっかくぐっすり寝込んでいたところを取次の者に起されました」
 (西郷の京都入りは1864年3月)
 「世間がだんだんと春めいて...庭前の梅の花の匂いを嗅いでいました」
 (「14.山嶽党奇談」へゆるやかながらも連続することから1865年と推定)


読者のみならず、同業者や業界からも
近年稀なエンターテイメント小説大作と評価された
「ジェノサイド」(2011)の刊行直後、
著者高野和明が読書履歴を語るという企画に登場していました。
インタビュアーの「小説はどういうものを読んでいたのですか」という問いに

 筒井康隆さんとか、大佛次郎さんの「鞍馬天狗」にも熱中しました。「鞍馬天狗」は、すごいエンターテインメントなんですね。昭和初期に、こんな大活劇を書いている人がいたんだと驚きました。「インディ・ジョーンズ」に匹敵するくらいの大冒険です。
   −WEB本の雑誌「作家の読書道」

と答えていて、おお。と思った記憶が鮮明なのですが
その(鮮明なはずの)記憶の中では
高野和明が「角兵衛獅子」を絶賛、となっていたので
今回原文を参照した際
作品名への言及がないと分かったときには驚きました。
いやーなんなの記憶力って。(←「俺の」が脱落してるのはワザとですワザとです


とはいえ
昭和初期の鞍馬天狗、というからには
「角兵衛獅子」をイメージした発言と見るのが順当でしょう
……と考えても不思議はないほど、
鞍馬天狗といえばコレ。なわけですが
そういえば本作のエディション違いってどれだけ出てるんだ。

出版社 叢書名 刊行年
 先進社  (単行本) 1929年
 興亜書房 (単行本) 1940年
 湘南書房 新日本少年少女選書 1948年
中央公論 鞍馬天狗(12) 1951年
 河出書房 日本少年少女名作全集(1) 1954年
 角川書店 現代国民文学全集(12) 1957年
 偕成社  少年少女現代日本文学全集(33) 1964年
 講談社  少年倶楽部名作選(1) 1965年
 講談社  大仏次郎少年少女のための作品集(1) 1967年
光風社書店 (単行本) 1967年
中央公論 鞍馬天狗(1) 1969年
 講談社  少年倶楽部文庫 1975年
 偕成社  ジュニア版日本文学名作選(53) 1975年
朝日新聞社 大仏次郎時代小説全集(2) 1975年
 講談社  大佛次郎少年少女のための作品集 1977年
朝日新聞社 (文庫) 鞍馬天狗(4) 1981年
 ポプラ社 中学生の文学(5) 1984年
 小学館  (文庫) 鞍馬天狗(1) 2000年
 文藝春秋 鞍馬天狗傑作選(1) 2007年


ざっと調べただけですが
少年モノの「名作選」において
本作を採らないと逆に見識が疑われる、という状態は
既に半世紀も継続しているようです。


さて、今回久しぶりに読み返して
いちばんへー。と思ったのは
作中の「そのとき偶然!」の多さ。

 ほんとうに杉作は、よくよく運がよかったと見えます。

なんの手がかりもなく歩いていたら
まさに探していた鞍馬天狗と“運よく”出会ったり

 ところが、その途端に、傍の路地から出て来た男が急に、その肩を鷲攫みにしました。

道を歩いていたら
いちばん見つかりたくなかった人に見つかってしまったり。


そもそも財布を落して途方に暮れていた杉作と弟分が
“偶然”親切なおじさんに出会う、というのは
それが物語のスタートですからOKとしましょう。でもね!

 「杉公に金をくれたというのが、ひょっとすると其奴なんだ。」

その、杉作にお金をくれた、倉田という侍の名前を聞いただけで
ひょっとするとそれはお尋ね者の鞍馬天狗では!
なぜならそいつの偽名は倉田だから!
ってそんな雑な推理、毛利小五郎も真っ青だけど。
いいんですかね。


初読時11歳だった私は
そうしたシーンに引っかかりを覚えること皆無で
……というわけではなかった、と思うのですが
そうした「都合よすぎるよねー」を吹っ飛ばすぐらいの
「それで? どうなるの?」感。
それは遊園地のジェットコースターみたいなもので。
……ってたとえで合ってる気がする。


つまり「次にどうなるか」が分かっていてもwktkが減るわけじゃない。
たしかに作劇手法の細部においては時代がかって見える部分もあるさ。
80数年前の作品だしね。
だけど、何回でも楽しめる。
そう、それこそ「インディ・ジョーンズ」のようにね!