編集者が編集するのは本だけじゃない! ○○もだ!

ウェブも電子書籍もDVDもCDも編集しちゃうよでもいちばん仕事多いのはけっきょく紙

敵と私の間の溝、味方と私の間の溝


一連のニュースを初報の5月13日から見てきていましたが
そろそろひと段落ついたかな。

[産経]09年5月14日
大手出版連合、ブックオフ株取得の狙いは?
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/090514/biz0905140907006-n1.htm
[朝日]09年5月30日
出版業界再編、カギは大日本印刷 書店など次々傘下に
http://www.asahi.com/business/update/0529/TKY200905290229.html
[産経]09年6月8日
ブックオフ“改善計画” DNPと出版大手の思惑
http://sankei.jp.msn.com/economy/business/090606/biz0906062000008-n1.htm

ブックオフvs出版プロパー業界という構図において
「中古本に著作権は及ばないと認識」
「新刊本を一定期間売らないのは事実上無理」
「自由価格本の販売にブックオフを使ってほしい」
の前者、
「コミックを含めて価値を創造する者へのリターンがあるべき」
「新刊が出たあと一定期間は店頭で売らないでほしい」
な後者。
とうてい両者のニーズは噛み合いそうにない。
という報道が主流だったなか、最近出たのが

[朝日]09年6月8日
万引き対策に電子タグ構想
http://book.asahi.com/clip/TKY200906080104.html

ブックオフを実験場として業界全体の長らくの課題である、
万引き対策の一歩を云々。
と、前向きな見解も出てきたか……という近況。
ついで、目にしたのがこんなの。

[新文化]09年6月9日
集英社・山下秀樹社長がブックオフ出資を説明
http://www.shinbunka.co.jp/news2009/06/090609-01.htm

ネット版から概要拝借。

都内で行った「販売賞」表彰式で山下社長は、入賞書店229社・約280人と取次会社の代表に対して「ブックオフへの出資は皆様が心配されるようなことはない。敵対関係を続けても進展はなく、必要に応じてルールを決めた方が良い」と言及。「新刊書店の活動こそが出版社を支える」と述べた。トーハン、日販の両社長もこの件に触れ、「新刊市場を守るため。コンテンツの権利を守っていかないと市場は萎える」などの発言も。懇親会でも有隣堂の松信裕社長が今回の出資について語り、ブックオフ一色の表彰式に。


うーん。なんだかね。
そんなこと言ってる場合じゃないのでは。
と思うのは、
そもそも生産者による勝手な見込み生産をおこなって
とりあえず小売店頭に並べて、売れればラッキー。
という出版流通の構造自体が
時代にそぐわないと明らかになるなかで
相変わらず「本の適正価格」とはなんぞや。
自問自答をしていない点。

そこにおいてはブックオフも出版プロパー各社も同罪、
というのが私なりのこの件の感想で。

原稿料がいくらか、
大多数の作家が出版社に事前に聞きたくとも聞けないのは
原稿がすなわち自分の魂と同義だからで
400字あたり1万円だろうが500円だろうが
何円といわれてもそれが適正だとは思いづらいからなのだ。
……というような、原稿料についての考察を
山本夏彦がかつて書いていましたが
「原稿」のみならず「本」の適正価格っていうのも
いくらが正解、と決めづらいところはあります。

ほかの娯楽に比べるとなんて安いんだろう、と思うこともあれば
文庫1冊1000円って泥棒かこの野郎、と思うこともあるし
ブックオフの100均棚からレジに持っていくとき
あー安い買い物した、と思ったり
著者に還元されないのがどうも落ち着かないな、と思ったり。


ブックオフの主張する「著作権は中古本には及ばない」という発想が
本を(文化ではなく)あくまでも商業の文脈で“のみ”とらえている、
そこへの嫌悪感が抜きがたくあって
あきらかに、元出版人としては“敵”にしか見えないわけですが
本来は“味方”のはずな方々の思惑もいかんせん小さすぎるようで

ひとが書籍に求めている価値とそれに値段をつけるという行為は
どう考えても出版というビジネスにおける最大のポイントなのに
いまだに、刷り部数からの逆算のような、
コンテンツプロバイダー側の論理のみしか存在しない現状は
もっと真剣に憂えるべきではないか、と。


銭形のとっつぁんが敵なのは最初っからわかってるさ、
だけどな、おまえまでそんなこと言ってるってなー
なんだか俺ぁ情けない気がするぜ、ルパン。

みたいな!