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編集者が編集するのは本だけじゃない! ○○もだ!

ウェブも電子書籍もDVDもCDも編集しちゃうよでもいちばん仕事多いのはけっきょく紙

出版社としての「ほぼ日刊イトイ新聞」

出版(売るほう)


テレビを観るような、ともだちと雑談するような、「読む時間そのもの」をサービスしたいと思いました。変化しつながり動くメディアを目指して、11月から、朝日出版社と出版の冒険をやっていきます。

と、サイトにいまも残る“宣言”を
ほぼ日刊イトイ新聞」(以下「ほぼ日」)がしたのが2001年のこと。
以降、出版社としての「ほぼ日」は
時間をかけて進化を遂げています。

巨大PVを誇るウェブサイト、であったり
有名コピーライターによる人脈が奏功して云々、だったり
あるいはNo.1ヒット手帳産みの親、だったり
そういう捉え方に比較して
「出版社としてのほぼ日」が言及されることは
少なすぎないだろうか。
こんなに重要な振る舞いをしているのに。
という思い付きが
このエントリーを上げようと思ったきっかけ。

2001年11月……
ほぼ日ペーパーバックシリーズ刊行、流通は朝日出版社への相乗り。
このころの代表作に
柳井正「個人的なユニクロ主義」
野口美佳×佐藤知代「胸から伝わるっ」
なんだかユニクロとピーチ・ジョン
今日の隔たりを思うと感慨深い。
2002年7月……
池谷裕二「海馬/脳は疲れない」
斉須政雄「調理場という戦場」
など話題作を朝日出版社からソフトカバーとして刊行、
コンテンツプロバイダー路線にシフトするのかねえ。
とユーザーとして思っていた。
2003年12月……
自社刊行物「オトナ語の謎」が売れ行き好調。
クラウド型コンテンツ(=ものは言いよう。投稿ってだけだ)を
自社流通に乗せて商売的に成立したタイトル。
飛躍のきっかけの1冊といえばこれではないかと。
2004年2月……
元来「オトナ語」と同時発売だったはずが、
祖父江慎装丁という無謀(=趣味的に過ぎる)チャレンジのせいで
刊行が遅れた記念碑的作品、「言いまつがい」。
乱丁本として各地の書店から返品の山を築いたという、
伝説の「伝染るんです」級に凝りに凝った装丁で
あきらかに採算度外視なノリでしたね。
2004年12月……
写真集「Say Hello!」がロングセラーに。
購入者の前提を
“読者”という曖昧な集団ではなく
“ウェブサイトの訪問者”に設定する、という
ほぼ日手帳」で築き上げた販売ノウハウが
このタイトル以降、確立されます。
2006年3月……
「だれでもつくれる永田野菜DVD」全10巻31,290円。
限定高単価商品、というジャンルを開発。
08年7月の「吉本隆明五十度の講演」CDセット5万円(!)に続く流れ。
2007年7月……
「TVウォッチャーの逆襲」
本編販促のための“おまけ”凝り初め。
具体的には糸井重里ほか3名による
TV関連談話コンテンツの再録、なのですが
書籍の体裁を最低限とることで
「ほぼ日」で買うとおまけに1冊手に入るよ、という企画。
2008年3月……
「はたらきたい。」
ウェブサイトを意識的に書籍PRに活用した初め(?)

手元に「ほぼ日刊イトイ新聞の謎。」が無いので
メルクマールになるような書籍タイトルを
サイトからピックアップしてみただけなのですが
以上の一覧だけでも
出版流通システムの把握に試行錯誤した時期から
「ほぼ日」でなければ・というコンテンツの選定軸が定まって
今日の“PRとしてのウェブ活用”の完成形に至るまで
課題をひとつずつクリアしてきた流れが
わかるような気がします。

無料コンテンツユーザーは金を払わない、
したがってPCウェブサイトは書籍の販促として意味を持たない
……という、もっともらしく流布されている言説へのアンチテーゼとしては
これらの事例で十分だろうと思うのですが
以下、「ほぼ日」の出版社としてのキーワードを
あらためて整理。

■流通
現状は“出版社を経営する”ことイコール
“大手取次に口座を持つ”ことなわけです。
ことほどさように、出版ビジネスにおける
最大のリスク要因が
商品をいかにして流通させるか、であると
示しているわけですが
そんななか、「ほぼ日」は
・出版社にコンテンツを提供する
・自社チャンネルに限定して販売する
・限定した書店のみへ商品を卸す
リスクを最小に抑えるため、これら3パターンを
商品単位で選択しています。
そこが“取次に一括して流通を丸投げ”
という選択肢を唯一のものと考えて
それに依存している既存出版社と大きく異なる点。

■何を書籍にするか
大前提として“ウェブサイトありき”なので
ウェブコンテンツのPVを注視していれば
売れるであろう部数、印刷するべき部数が
致命的な誤差なく推定できる、という
好循環が形成されています。
つまり
“書籍の販促のためにウェブコンテンツを作る”
という一般的なフローの対極。

■販促手法としてのウェブサイト
NHK出版の「フリー<無料>からお金を生みだす新戦略」という書籍が
紙の本の発売を前に
1万部限定で全編PDFダウンロード可、という仕掛けを先ごろ施して
ちょっとした話題を呼んだのですが
「ほぼ日」にあってはコンテンツ全編公開こそが常態なので
個人的には何をいまさら、の感がありました。
(前述「はたらきたい。」に至っては
“ウェブでしか読めないコンテンツ”もあった)
繰り返しますが
そもそもウェブコンテンツとして作った素材のうち
人気があったもの/いま出すべきだと考えるもの
を紙の本として刊行する、のが「ほぼ日」のスタイルなので
書籍とウェブサイトはそもそも不可分の関係。

この連載が本になりました!
とコンテンツのヘッダ、フッタに告知するのが初歩だとすれば
「はたらきたい。」以降(現在の最新刊「黄昏」も)の書籍では
−TVの連続ドラマがクライマックスを迎えて視聴率を獲りたい、と思う
まさにそのタイミングで再放送を昼夕帯に一挙放送するように−
コンテンツの一挙掲載と
書籍の発売をシンクロさせて
ユーザーの“購入ボタンをぽちっとな”アクションを
強烈に促す手法に移行しています。

練れたウェブユーザーは
そんな“釣り”にむざむざ乗るのはシャクだなあ、
と無論、思うわけですが
コンテンツの魅力を直球でぶつけられたあとに
「いま『ほぼ日』オンラインで購入すると特典が」
という餌を見ると
ついつい、オンラインショップを覗きに行きたくはなる
(=まだこの段階では買うとも買わないとも決めていません)
そこで、ああ“ついで買い”をすれば送料も相対的に安くなるなあ、
あ、これも欲しかったんだよ。
云々となるような、豊富な商品群を「ほぼ日」は用意しているわけで
まさに思うツボな導線をたどってしまっているというね。

然り、そういうわけで
「ほぼ日」にできることが
優良コンテンツを(書籍として)多く抱える
ほかの出版社にできないわけがない、
できていないとすればそれはただの怠慢だよ。
と私が思う次第なのであります。