本の帯■いわゆる「北上次郎的な惹句」問題
いわゆる、と言いつつ
世の中で私だけが問題にしている感が
ぬぐえませんが
まず「北上次郎的」とは何なのか。
実例を見ていただくのが近道かと。
ゴミにしか見えない件(北上次郎ブランド帯を探してるん) twitter.com/unpocketable/s…
— unpocketableさん (@unpocketable) 11月 23, 2012
……ゴミじゃねえよ、本の帯(の一部)だよ。
で、これを見てって言ってるわけじゃ
ないのよ(じゃあ見せんな
新刊時に本に巻かれている、
帯と呼ばれるモノに記される文句は
原則として編集者が考える
ことになっていますが
巻末解説を北上次郎が書くと
彼のテキストから引用するほうが
潜在購買層へ強く訴えられる、と
判断されがちです。
それ即ち
書評家・北上次郎の面目なので
いいことだと思うのですが
結果として、それらは
一定の様式美におさまる、
という現象があります。
それを指して
「北上次郎的」と
わたいは言っていて(わたい?
さてそこで(やりなおし
■「北上次郎的」なるものの実例
「読み始めたらやめられない。これは打海文三の傑作だ」北上次郎(解説より)
「裸者と裸者〈下〉邪悪な許しがたい異端の (角川文庫)」
ラスト近くでまた涙がこみ上げてきた。いい小説だ。多くの人に読まれてほしい小説だ。-北上次郎(本書解説より)
「Run!Run!Run! (文春文庫)」
読み始めてすぐ、これはただごとではないと思った。自分はいま傑作を読んでいるのだ、という確信を抱いたのである。-北上次郎(解説より)
「しずかな日々 (講談社文庫)」
まず、ですよ。
書名や作者名のシャッフルが可能なことに
お気づきですか。
とはいうものの
これらのことばは
作品に接した解説者の
胸の奥のほうから湧いて来たことばであって
後付けの/原稿料換算の
形容詞句ではないことは
実際に、作品を/解説を
読んでみれば納得がいくので
編集者が“帯に有効な”
フレーズを解説文から探すと
(楽曲でいう)サビの部分が
どうしても似てきてしまうのは
それこそが北上次郎の芸風
ということなんですけどね。
もちろん、もうちょっと
当該作品に特化したコメントが
引用されているケースも
ないわけじゃないんですよ?
文芸評論家・北上次郎氏絶賛!「骨太の歴史小説であり、超面白伝奇小説である!」
「高麗秘帖―朝鮮出兵異聞 (祥伝社文庫)」
川西蘭はもともとスポーツ小説の名手なのである。その素材として今度は自転車競技を選んだのである。期待に胸が高まるのも当然-北上次郎(解説より)
「セカンドウィンド〈1〉 (ピュアフル文庫)」
……うん? まあ、そうねえ、
同じっちゃ同じか?
ラストの壮絶な潜入行まで一気読みの快作。ホント、面白かった。北上次郎『OKAGE』(新潮文庫)解説より
「サラマンダー殲滅(上) (光文社文庫)」
今回、帯の山から発掘したなかで
いちばんウケたのが
この最後に挙げた、
アクロバチック
としか言いようがない帯でした。
他社作品の解説を使うって何事w
以上をトータルして申し上げたいのは
もうね、こういうのは
■北上次郎の専売特許
でイイじゃないか。
ということです。
・書名や作者名を隠せば
別に「その本」でなくても通用するような
・作品の内容を示唆するのではなく、
読んで想起される感情の
模範回答が
あらかじめ記されているような
そんな、言い回しは
北上次郎本人であれば
私(たち)は許容できる。
だけど
ほかの書評家(あるいは編集者)が
彼のスタイルを真似るのは
-全否定はしませんよ、もちろん。その
つい使いたくなる気分は理解できるから-
節度が必要であろう、と。
全読書界において
総量規制が必要なんじゃないか、と。
「情痴小説」とは、ダメ男小説なのだ。本書に登場する、泣き虫で、身勝手で、独善的な男たちは我々自身かもしれない、だからこそ、さあ、読め!
マガジンハウス「情痴小説の研究」
競馬がなければ生きられない 当たっても外れても酒を飲んで忘れよう 競馬場こそが人生だ
ミデアム出版社「馬券党宣言」
本人の著作に付けられた
これらの(他社編集者の手になる)惹句は
要するに「本の雑誌」という媒体が
発明した、私も愛してやまない文化
の末席に連なるもの
であるにしても
本人発のソレほどのパワーには
欠ける気が、どうしても、します。
……そりゃまあそうだろ、
形だけ真似ても亜流にしかならない。
というようなことを思うのは
なんだか最近「北上次郎ふう」の帯が
目について・気になったもので。
本家の劣化コピーになってませんか?
ほかの表現は無いか、
本当に脳味噌をしぼりましたか?
面白さをひとに伝えるため
新しい方法論を生み出してきた
先達に恥じない仕事だ、と
振り返ることができますか?
はっはっはっ、けっこう自分の耳が痛いぞ。
他人のお仕事を弾劾してる場合じゃない、ってか。
ゴモットモ!