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7.鬘下地


初出:1924年ポケット
参照:朝日文庫版(1)(1981年12月、解説福島行一)
時代設定:1867年11月
 「明るい中にうら冷たい秋の日射が往来を照らしていた」
 (「6.刺青」「8.香りの秘密」との連続性により1867年と推定)


鞍馬天狗シリーズ初期の8編はなにかと扱われ方が雑なのですが
作者自身が若書きを認めていることが
その根拠になっている側面もあります。

 意思も才能もなく始めた仕事で、私は現在でも羞ずかしいと思っている。読むに耐えないと思うし、自分でも読み返したことがない。ただ自分の一生をこれで決めてしまったことを認めなかったら嘘である。いわば、初期の『鞍馬天狗』を集めたこの一冊は、記念的なものなので、途中の気に入らぬ部分を省略して、連載だった体裁を整え、お目にかけることにした。
   −中公十巻全集(10)あとがき

いいんです、これはこれで。
作者だから。

看過できないのは
「シリーズ47本の全作品を読みぬいて」と謳っている
川西政明著、その名も「鞍馬天狗」(2003)という岩波新書の1冊ですよ。

 髷物を書く上での基本となる歴史に作者は疎かった。だから「鬼面の老女」「銀煙管」「女郎蜘蛛」「影法師」「刺青」「鬘下地」(以上、1924年)の短編群は時間感覚が一定していない。ただ「刺青」で江戸へ出て御用盗事件をおこすことを西郷隆盛から提案され、鞍馬天狗と小野宗房、黒姫の吉兵衛らの一行が京都を出発するところから、「鞍馬天狗」の時間軸が一定する。「刺青」「鬘下地」「香りの秘密」(1924年)、「御用盗異聞」(1925年)は薩摩藩による江戸騒がせをその時間軸にもつ。
   −川西政明鞍馬天狗

「鬘下地」に関する記述はこれだけなんですよ!
うっそ全作品を読みぬいてるはずなのに?
何それ……共感するんですけど。


一番困るのが「鬘下地」というタイトル。


鞍馬天狗“一行”に夜桜のお辰という姐さんが含まれていて
彼女が偶然出会う幼なじみ、
お政との悲しい縁を……書こうとしたんだろうけど
話がそっちに進まないまま、
連載のスペースが終わってしまった感が満載。

しかも、お辰・お政の話を追求したところで
とりたてて意義のあるふくらみが出るとは
(いま頭をひねっても)考えづらいし
さりとて本作のほかの登場人物、猿の吉次もなあ。
もひとつパッとしたところがない。

つまり、本作については堂々スルー。が、
鞍馬天狗ファンとしての正しい態度であるといえましょう。
どっとはらい