(ネタバレ無し)宮部みゆき「ステップファザー・ステップ」原作続編レビュー(愛読者バージョン)
某「おい、こいつ息をしてないぞ」なSNSの
宮部せんせコミュを久しぶりに覗いたら
ちらっと話題にあがっていたので
初期の名作「ステップファザー・ステップ」に
続編が存在して
かつ、せんせ自身が本にまとめることはしないと言っている
ということまでは知っていたものの
内容までは一切知らなかったので
愛読者歴15年(=そこまで古くない
としては
思い立ったが吉日、と
国会図書館に掲載誌の遠隔複写申請をして
読んでみました。
なお、本題からは外れますが
国会図書館まで遠征する交通費を考えると
・複写実費(今回1,272円)
以外に必要な
・発送事務手数料(固定:150円)
・送料実費(今回367円)
をあわせても
この遠隔複写サービスってお得。
ということに
初めて利用してみて、気付きました。
なにしろ資料検索から請求、
そこからの複写請求、完了までの
待ち時間を考えると
せっかく来たんだから、と
いろいろよそでは閲覧できない資料まで
目を通しておこう、という気分も働くし
一日仕事になるわけで
いいですね、真面目な話。
さて、そこで
作者が単行本化することはない、と言明している
「ステップファザー・ステップ」続編
5つの短編です。
※連載中イラスト(c) 阿部真理子
検索すると
ぼんやりとでも、この続編たちの内容が
分かるような世の中ではありますが
中学生の双子の兄弟と、彼らの父親代わりをする羽目になったプロの泥棒である主人公の身にふりかかる様々な事件を描いたユーモアミステリー。タイトルの「ステップファザー」(stepfather)は日本語で「継父」を意味する。
というwikipediaのオリジナルストーリーへの言及を
汲みながら
ネタバレ無しでまとめるなら
双子の兄弟の父親代わりが板についた主人公が、彼らの実の両親を探そうとするうち思いもよらない事実に遭遇。本編にあったユーモアはおさえ気味に物語の第一幕が上がるが、ちょうどそのころ直木賞受賞によるお祭り騒ぎが作者を襲ったこともあって、未完のままである。
というような感じ・ですかね。
なにしろ本編は
他作品ではあまり見せない、作者のユーモアセンス
を全開にしているところ
子どもと老人を描かせれば天下一品、の定評ある筆力が
遺憾なく発揮されているところ
読者の感情移入がきわめて容易にできる、
思想の述懐をためらわない主人公の造形
以上3点が
いまだに人気を博している理由だと思うのですが
残念ながら続編においては
・ユーモア控え目
・老人登場頻度低く
・ついでに言うと双子の活躍は皆無で
・主人公も事のなりゆきに戸惑ったまま
という展開でして
愛読者のひいき目で見ても
……。
となるのはやむをえない。
そして、いちばんの問題は
この続編が書かれることによって
本編が届けていた
「さわやか」
ニュアンスが消えてしまう点。
もちろん未完に終わっているので
このあと、相当な力技を繰り出せば
本編の世界観に戻すことは不可能ではなかった
のかもしれませんが
なにぶん発表時期の宮部せんせは
遅ればせながら受賞した直木賞によって
ようやくメインストリームを歩み始めた、という
非常に重要な時期でありまして
そのタイミングで指す手としては
続編用に何の気なしに出したのであろうモチーフは
扱いづらいものだったのでしょう。
「理由」完結以降
登場人物に感情を移入できなくとも
読者を惹きつけることはできる、と
次々に野心作を世に問いはじめる巨匠・宮部みゆきにして
手に余った素材、というのが
茫洋とした感想でござる。
書名 | 単行本刊行年 |
---|---|
パーフェクトブルー | 1989 |
魔術はささやく | 1989 |
我らが隣人の犯罪 | 1990 |
東京下町殺人暮色 | 1990 |
レベル7 | 1990 |
本所深川ふしぎ草紙 | 1991 |
返事はいらない | 1991 |
龍は眠る | 1991 |
今夜は眠れない | 1992 |
かまいたち | 1992 |
とり残されて | 1992 |
スナーク狩り | 1992 |
火車 | 1992 |
長い長い殺人 | 1992 |
震える岩 霊験お初捕物控 | 1993 |
ステップファザー・ステップ | 1993 |
淋しい狩人 | 1993 |
幻色江戸ごよみ | 1994 |
地下街の雨 | 1994 |
夢にも思わない | 1995 |
初ものがたり | 1995 |
鳩笛草 | 1995 |
堪忍箱 | 1996 |
人質カノン | 1996 |
蒲生邸事件 | 1996 |
バッド・カンパニー | 1997 |
心とろかすような マサの事件簿 | 1997 |
天狗風 霊験お初捕物控 | 1997 |
ダブル・シャドウ | 1998 |
マザーズ・ソング | 1998 |
ファーザーズ・ランド(前) | 1998 |
クロスファイア | 1998 |
理由 | 1998 |
平成お徒歩日記 | 1998 |
ファーザーズ・ランド(後) | 1999 |
あやし | 2000 |
ぼんくら | 2000 |
チチンプイプイ | 2000 |
ドリームバスター | 2001 |
模倣犯 | 2001 |
R.P.G. | 2001 |
あかんべえ | 2002 |
ドリームバスター2 | 2003 |
ブレイブ・ストーリー | 2003 |
誰か | 2003 |
ICO霧の城 | 2004 |
ぱんぷくりん 鶴之巻/亀之巻 | 2004 |
日暮らし | 2005 |
孤宿の人 | 2005 |
ドリームバスター3 | 2006 |
名もなき毒 | 2006 |
楽園 | 2006 |
ドリームバスター4/5 時間鉱山 | 2007 |
おそろし 三島屋変調百物語 | 2008 |
英雄の書 | 2009 |
あんじゅう 三島屋変調百物語事続 | 2010 |
小暮写眞館 | 2010 |
ばんば憑き | 2011 |
おまえさん | 2011 |
チヨ子 | 2011 |
悪い本 | 2011 |
ここはボツコニアン | 2012 |
ソロモンの偽証 | 2012 |
桜ほうさら | 2013 |