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13.剣侠閃光陣



初出:1928年文藝倶楽部
参照:初出誌
時代設定:1863年3月
 「文久三年の弥生七日、都を春の花が飾って人の心が浮き立っている頃である」


大仏次郎研究会のホームページをはじめ
本作の初出は1928年文藝倶楽部、4月号から9月号。連載回数6回。
とされているのですが、現物を何度見返しても
9月号に鞍馬天狗はありません。
(「銀簪」というノンシリーズの短編が掲載されている)
つまり連載回数は5回、が正しいのでは。


と思うものの、
話がエラくとっちらかって
結局作者すら投げ出してしまった作品だし
5回でも6回でも、大差ないんじゃないですかねー(イイカゲンか!

 「無理もねえ!」突然に誰れか群衆の中から叫んだ。ほとんどこの声が導火線となって、群衆の公憤を遮っていた堤を切ったも同然であった。
 「鬼だ!」「いたわってやれ。相手はよぼよぼの年寄なんだ。」「ひでえことをするな。」
 こんな叫び声が、ごうごうと口々に言い罵る中に聞えた。人波は後の方からどっと押し出されて雪崩れをうって崩れようとした。驚いて手先達がこれを制し、護衛の武士達はすわとばかりに紋之助を囲んで威嚇的に睨みながら身構えた。その中に、主膳は、まったく狼狽して顔色を変え刀に手を掛けていた。自分がいつも軽蔑し切っている町人たちが、こんなに烈しい反感を示して出ようとは夢にも思わなかったことだった。


刑場に連行する途中、罪人の実家前を通ると
我が子(紋之助)を気丈に見送る母の姿が。
愁嘆場を期待していたのが裏切られ
むかむかした執行者(主膳)が老人を突き飛ばしたら、
という一幕ですが
まさに“どこからツッコんだらええねん状態”ですね。


市中を騒がす浪人の処刑を目撃しようと集まってきていた烏合の衆が
暴徒化する瞬間を切り取っているのは
作者の教養にあったフランス革命を連想させて興味深いですが
すぐに鞍馬天狗による逃亡幇助(そして失敗)へと
シーンは転換されてしまいます。


後年の、ジャーナリスト鞍馬天狗とは異なり
見る前に跳べ
を実践していた最初期の鞍馬天狗
そろそろ作者の中でも整合性がとれなくなっていることがよくわかって
……再び申し上げますが、連載回数が5回でも6回でも大差ないと思うなー。