トーハン「2012年 年間ベストセラー」文庫ランクの集計が恣意的で弱った件
年末恒例風物詩であるところの
■トーハン「2012年 年間ベストセラー」
(集計期間=2011年12月~2012年11月)が発表されまして
総合1位は「聞く力」(阿川佐和子著)、
文庫総合1位は「ビブリア古書堂の事件手帖」(三上延著)の3点。
ってシレッと書かれていたので
危うく見逃しかけましたが
3点? ああ、足して1位か。
……ってなんだって足しちゃうんだよ、おい。
順位 | 作品名 | 著者 | 文庫レーベル |
---|---|---|---|
1 | ビブリア古書堂の事件手帖(1~3) | 三上延 | メディアワークス文庫 |
2 | 1Q84 BOOK 1~3前編・後編 | 村上春樹 | 新潮文庫 |
3 | プラチナデータ | 東野圭吾 | 幻冬舎文庫 |
4 | 聖女の救済 | 東野圭吾 | 文春文庫 |
5 | 少女 | 湊かなえ | 双葉文庫 |
6 | 悪の教典(上・下) | 貴志祐介 | 文春文庫 |
7 | ツナグ | 辻村深月 | 新潮文庫 |
8 | 三匹のおっさん | 有川浩 | 文春文庫 |
9 | 贖罪 | 湊かなえ | 双葉文庫 |
10 | ソードアート・オンライン(1~10) | 川原礫 | 電撃文庫 |
発行年不問、
集計期間中の売り上げベストがこちらになります。
という表向きの基準も
プレスリリースはとりあげられてなんぼやさかい。
という本音の部分も
分かることは分かるのですが
ランキングってそういうものかい?
2位は6冊
6位は2冊
10位も10冊
ほかのタイトルは1冊ずつの成績ですよね?
団体戦なのか個人戦なのか、どっちやねん。
と、釈然としない自分が居ることも確かなので
しょーがないから
■私的「2012年 年間ベスト」
を考えてみることでこのモヤっと感を払拭しようと思ったんですまる。
順 | 作品名 | 著者 | 出版社 | 実勢価 |
---|---|---|---|---|
1 | 村田エフェンディ滞土録 | 梨木香歩 | 角川書店 | 105円 |
2 | いしいひさいち 仁義なきお笑い | 河出書房新社 | 1260円 | |
3 | 鞍馬天狗全集 7 | 大仏次郎 | 中央公論 | 700円 |
4 | 水の繭 | 大島真寿美 | 角川書店 | 105円 |
5 | きりこについて | 西加奈子 | 角川書店 | 315円 |
6 | 落葉・回転窓 | 木山捷平 | 講談社 | 1575円 |
7 | 泡坂妻夫引退公演 | 泡坂妻夫 | 東京創元社 | 4830円 |
8 | 死者たちの夜 | 結城昌治 | 角川書店 | 105円 |
9 | 岬一郎の抵抗(一)~(四) | 半村良 | 講談社 | 各105円 |
10 | つばくろ越え | 志水辰夫 | 新潮社 | 704円 |
毎年のことですし
なにしろ自分のことですから
そこに驚きはないですけど
古いよね俺のリスト!
というか
本当の意味で「2012年作品」は
ひとつも無いんじゃ……。
そして木山捷平の文芸文庫最新刊は
集計対象期間外の刊行だったりしますが
「出る」って聞いただけで
ここに入るんだようるせえ文句あっか。
本の帯■いわゆる「北上次郎的な惹句」問題
いわゆる、と言いつつ
世の中で私だけが問題にしている感が
ぬぐえませんが
まず「北上次郎的」とは何なのか。
実例を見ていただくのが近道かと。
ゴミにしか見えない件(北上次郎ブランド帯を探してるん) twitter.com/unpocketable/s…
— unpocketableさん (@unpocketable) 11月 23, 2012
……ゴミじゃねえよ、本の帯(の一部)だよ。
で、これを見てって言ってるわけじゃ
ないのよ(じゃあ見せんな
新刊時に本に巻かれている、
帯と呼ばれるモノに記される文句は
原則として編集者が考える
ことになっていますが
巻末解説を北上次郎が書くと
彼のテキストから引用するほうが
潜在購買層へ強く訴えられる、と
判断されがちです。
それ即ち
書評家・北上次郎の面目なので
いいことだと思うのですが
結果として、それらは
一定の様式美におさまる、
という現象があります。
それを指して
「北上次郎的」と
わたいは言っていて(わたい?
さてそこで(やりなおし
■「北上次郎的」なるものの実例
「読み始めたらやめられない。これは打海文三の傑作だ」北上次郎(解説より)
「裸者と裸者〈下〉邪悪な許しがたい異端の (角川文庫)」
ラスト近くでまた涙がこみ上げてきた。いい小説だ。多くの人に読まれてほしい小説だ。-北上次郎(本書解説より)
「Run!Run!Run! (文春文庫)」
読み始めてすぐ、これはただごとではないと思った。自分はいま傑作を読んでいるのだ、という確信を抱いたのである。-北上次郎(解説より)
「しずかな日々 (講談社文庫)」
まず、ですよ。
書名や作者名のシャッフルが可能なことに
お気づきですか。
とはいうものの
これらのことばは
作品に接した解説者の
胸の奥のほうから湧いて来たことばであって
後付けの/原稿料換算の
形容詞句ではないことは
実際に、作品を/解説を
読んでみれば納得がいくので
編集者が“帯に有効な”
フレーズを解説文から探すと
(楽曲でいう)サビの部分が
どうしても似てきてしまうのは
それこそが北上次郎の芸風
ということなんですけどね。
もちろん、もうちょっと
当該作品に特化したコメントが
引用されているケースも
ないわけじゃないんですよ?
文芸評論家・北上次郎氏絶賛!「骨太の歴史小説であり、超面白伝奇小説である!」
「高麗秘帖―朝鮮出兵異聞 (祥伝社文庫)」
川西蘭はもともとスポーツ小説の名手なのである。その素材として今度は自転車競技を選んだのである。期待に胸が高まるのも当然-北上次郎(解説より)
「セカンドウィンド〈1〉 (ピュアフル文庫)」
……うん? まあ、そうねえ、
同じっちゃ同じか?
ラストの壮絶な潜入行まで一気読みの快作。ホント、面白かった。北上次郎『OKAGE』(新潮文庫)解説より
「サラマンダー殲滅(上) (光文社文庫)」
今回、帯の山から発掘したなかで
いちばんウケたのが
この最後に挙げた、
アクロバチック
としか言いようがない帯でした。
他社作品の解説を使うって何事w
以上をトータルして申し上げたいのは
もうね、こういうのは
■北上次郎の専売特許
でイイじゃないか。
ということです。
・書名や作者名を隠せば
別に「その本」でなくても通用するような
・作品の内容を示唆するのではなく、
読んで想起される感情の
模範回答が
あらかじめ記されているような
そんな、言い回しは
北上次郎本人であれば
私(たち)は許容できる。
だけど
ほかの書評家(あるいは編集者)が
彼のスタイルを真似るのは
-全否定はしませんよ、もちろん。その
つい使いたくなる気分は理解できるから-
節度が必要であろう、と。
全読書界において
総量規制が必要なんじゃないか、と。
「情痴小説」とは、ダメ男小説なのだ。本書に登場する、泣き虫で、身勝手で、独善的な男たちは我々自身かもしれない、だからこそ、さあ、読め!
マガジンハウス「情痴小説の研究」
競馬がなければ生きられない 当たっても外れても酒を飲んで忘れよう 競馬場こそが人生だ
ミデアム出版社「馬券党宣言」
本人の著作に付けられた
これらの(他社編集者の手になる)惹句は
要するに「本の雑誌」という媒体が
発明した、私も愛してやまない文化
の末席に連なるもの
であるにしても
本人発のソレほどのパワーには
欠ける気が、どうしても、します。
……そりゃまあそうだろ、
形だけ真似ても亜流にしかならない。
というようなことを思うのは
なんだか最近「北上次郎ふう」の帯が
目について・気になったもので。
本家の劣化コピーになってませんか?
ほかの表現は無いか、
本当に脳味噌をしぼりましたか?
面白さをひとに伝えるため
新しい方法論を生み出してきた
先達に恥じない仕事だ、と
振り返ることができますか?
はっはっはっ、けっこう自分の耳が痛いぞ。
他人のお仕事を弾劾してる場合じゃない、ってか。
ゴモットモ!
いかなる場所でも開くことのできる、ある種の表紙によって保護され、背と称する一端で固められた、多数の紙葉に書かれ(印刷され)たもの
都内で先日
「いかなる場所でも開くことのできる、
ある種の表紙によって保護され、
背と称する一端で固められた、
多数の紙葉に書かれ
(印刷され)たものフェア」
というミニコーナーを
(カレンダーの裏で)
こっそり展開している書店を
目にしました。
200点ほどが並ぶその一角で
いまパッと思い出せるタイトルを挙げれば
松丸本舗主義 奇蹟の本屋、3年間の挑戦。
書店の棚 本の気配
世界の夢の本屋さん
古本の雑誌 (別冊本の雑誌)
などなど。
つまり、
書物とは何ぞ。
という定義に戻ることで
(いわゆる)リアル書店の
原点を見つめ直そうという主旨、
というか明らかに
「おれたちは電子書籍になんか負けねー」
宣言でしたね、あれは。
たしかにねえ。
(いかなる場所でも開くことができる
とは限らない)
(サービス提供者の意図によっては
購入後も保護されている
とは限らないとわかった)
(ハードウェア的発想で固められた)
(多数の電子書籍リーダーフェア)
といいたくなるような
デバイスの乱立を目にすると、
原点に戻りたくもなる。
しかしこのフェア
惹かれるような奴(=俺とか)は
だいたいのタイトルを知っていて
それでも買ったり読んだりしていないのには
相応の理由があるので
売上に結びつかないんじゃ、
という気もしました。
あとね、どうがんばっても
フェアタイトル覚えるのが無理ゲー。
原作に心酔していた作品の映像化、で思い出すこと
小説の映像化って
とくに和モノの場合
基礎となる演技が痒いので
いっそ実写でないほうがいいです派なんですが
それは必ずしも演者だけが
責任を負うべきものでもなく
なんでああもセリフまわしが
「芝居がかっちゃうかねえ」とかさ。
映像化されることで
原作とは違うメディアならではの魅力を
引き出されて
おお。
ってなることはあるとして
(と言いつつ具体例が思い浮かばない)
(ああ、ボーン・アイデンティティー的な?)
小説が読者に提供した官能が
これは間違いなく文字メディアならでは。
と確信を持っていた
まさにそのシーンを
原作と同じ方法論で映像化して
それでいて
原作を超えた感情を
引き起こした作品って
個人的には過去ひとつしか
経験してないんですよね。
デイヴィッド・ベニオフの原作を
スパイク・リーが映画化した
「25時」(2002)。
これ、エピローグが
モノローグな作品なんですけど。
メディアとしての特性上
行間にどれだけの思いを込めるか、は
読み手にゆだねることができるのが
小説の強みで
そこまでの話のナリユキに
踊らされている私なんざ
万感胸に迫っていて
ちょっと突いたら
涙腺崩壊の状態なのに
だからって
そこで朗々と歌い上げられたら
ヒくわー。それはナイわー。
って言い出すに決まっている、
非常にうるさい観客なわけです。
だけど
そんなわがままな観客に合ったスタイルを
作者に代わって創造することができるのも
小説ならではで
つまり、そのシーンを読んでいる私の
脳に聞こえてくる「声」は
代替不可能な、唯一無二のものとして
存在する。
ね。
そういう作品を映画化して
いくら主人公が
名優エドワード・ノートンだからって
(ちなみに既に
「アメリカン・ヒストリーX」(1998)
「ファイト・クラブ」(1999)
を経た後、フリーザでいうと
最終形態に変身済ノートン)
才人スパイク・リーが撮ったら
いかにもな感じになっちゃうんじゃ?
と油断しながら見始めたんです。
そうしましたら
ええ、スパイク・リーって
職人芸に徹することもできるのかい?
と意外なまでに
原作に忠実な仕上がりに驚いて
最後の最後
エピローグが始まったときの、あの
……ううん。
どうなんですかねえ。
10年前、文字通り放心してしまうような
体験を映画館でして以来
いまだに一度も
(その感動を壊したくなくて)
見直してないんですけど
いま、もし再見しても
あのとき受けた衝撃を
感じるのでしょうか。
ひょっとしたら
たまたまそのときのムシの居所のせいで
むやみに情感が動いてしまった「だけ」で
原作以上のものが
恒久的に映像作品に在るわけでは
実はない
の・かも・しれません。
だとしても
「原作と同じ手法で映像化して
小説を超えることもできるんだ、
映画って」
という衝撃は
10年たった今も、薄れることなく
私の中に残っているんですけどね。
図書館戦争って図書館で本を借りるなんて許せん派と複本の自由を我々は守り抜く派が戦争するっていう話ですよね? 真ん中で児玉清がジャッジするんですよね?(=図書館ネタを考えてたら混線した
図書館で本を借りること。
っていう命題は
時間を消費させるという意味で
とくに出版界に生存する人間には
考え甲斐があるものですが
ちょうど
実写キャスティングが発表になったとかで
「図書館戦争」の字面を目にしたり
愛読している
WEB本の雑誌 帰ってきた炎の営業日誌
で図書館で本を貸す/借りる行為を
なんとか出版界にとって
有益に換金する方法はないものか
と語られていたりしたので
内科医の待合室で、私も
とつおいつしてました。
ちなみに児玉清役(……)を石坂浩二が務める件は
まあそんなもんだろ、と思いますが
※追記 稲嶺司令ではない役、
だそうですね石坂浩二
博多華丸をどこかで出してもらうのが
いちばん、この作品を推した方への
正しい追悼だと私は思う(キッパリ
もっと言うと、紀伊國屋本店の事務所から
送り出す役がベストフィットではないか。
「(ドヤ顔で)(目を見開いて)(あの声で)
アタックチャンス」
公的施設としての図書館、
という立場は
拙速が党是な現政権党(違うの?)が
多方面で展開して悪評サクサクな
ドラスティックな改悪が
同様に波及してこないともかぎらず
出版状況クロニクル小田氏の持論に
「日本の出版業界を支えてきた
エロ雑誌、大衆小説、コミック
という三本柱」
のアーカイブとして
図書館が機能することはない
ってのがあるんですけど
わりと忘れられがちな観点で
しかも
いちばん最初に悪い方向に進むのは
ここじゃないか、という気が
最近するんですよね。
・小説家が「俺の本を貸さないで」
と言ってみる、という事案が象徴するような
文芸という業種の
余命いくばくもない感
・たとえ3,000人待ちだろうと
貸出予約をすることが
新刊を読む行為と考える、お読者様による
本を「定価で買う」行為の消滅
・専門図書が図書館で購入されない
いわゆるひとつの
「文明退化の音がする」問題
などなど、いずれをとっても
暗澹たる側面はありますが
それって
_人人人人人人_
>ゆるやかな死<
 ̄^Y^Y^Y^Y^ ̄
には違いなく
我々は人類の一員として実は
そうした緩慢な滅亡には
鷹揚に対応中なわけです
(=現在進行形
為政者のトンチンカンを制止する
機能が働かないと
本当にメディア良化法が成立して
・図書館が書店の廃業を促進し
・法律が「アーカイブする価値あり」と
認めたもの以外は入手できなくなり
・表現の不自由が気にならなくなる程度に
精神活動が死んじゃう
っていう
看過すべからざる死を迎えるトリガーに
図書館はなりえる。
……ええと、結論としては
図書館戦争というフィクションが
あえて避けて通った
メディア良化法
立法化当時の世の中と
現世の今の世の中の類似について、
もうちょっとちゃんと
考えたほうがいいな、俺。
本屋大賞連ドラ化決定(全12話)!■の文字で妄想する物語(第1話~第4話)
本屋大賞が
ついに10回という節目を迎えるのを
記念いたしまして
WEB本の雑誌の
名物連載「帰ってきた炎の営業日誌」を
並べて遊んでみたん。
ここ数年
・受賞作品は必ず売れる
・映像化もされて話題になる
云々
まさかの“権威”っぽい感じになって
初期からのウォッチャーとしては
感慨深いわけですが
そうなったがゆえに、
“本屋大賞を叩くとウケる”
と判断する風向きなども出て来ていて
賞を育て上げた当事者各位が
イラッとしておられるであろう以上に
おまえらうるせえ。
と一介の通りすがりである私ですら
思ったりもするわけで。
ええ、なにしろ単行本買わないんで
本屋大賞には
いかなる意味でも参加できない私。
なんですが
それとも
「泡坂妻夫引退公演」が
本屋大賞に選ばれる
パラレルワールドが
ある、とでも?
そういう立場のウォッチャーだからこそ
見えることもあるんじゃなかろうか。
というわけで
「本屋大賞」の歴史を
炎日記の引用で
ワンクール分を組み立ててみた……ら
長くなったのなんのって。
20年目に黄金を抱いて翔べ
高村薫原作の映像化って
宮部みゆきのそれと同様
あまり幸せな結果をもたらしていないと思うのですが
(宮部せんせについてはついにその歴史が
ビョン・ヨンジュ版「火車」で終止符を打った
……ってことに
作品未見のまま結論してみた私ですが)
そこで井筒和幸の手による
「黄金を抱いて翔べ」
ですよ。
もうすぐ公開されてしまうので
見ないうちになんか言うなら
今しかない! あわてて原作を引っ張り出してきました。
(この項なんか変ですか。そうですか。……そう?)
1990年作品とはいえ
時代に拠った記述の多い作家ではないので
そんなに古くなってないんじゃないかねー。
という予見ありつつの
何度目かの読書でしたが
映画ではじめて小説の存在を知った若者が
うっかり手にとって気になるところがあるとすれば
・携帯電話が無いってオカシクない?
・犯行予告がPC-VANってどこそれ?
・大阪の夏が格別暑いってどういうこと?
日本全国が熱帯化してしまった21世紀の今日では
納得しづらい最後の要素ですが
盆地である京都の夏は、とか
瀬戸内の凪は、とかそういう表現と同様
ブンガク的修辞として
20年前には成立していた気がします
まあ作者を含めた「大阪の人間」の
思い込みだった説も否めないけど。
このぐらいの古びた要素を気にしなければ
ふつうに読める作品かしら。どどどどうだろう?
というのが
今回あらためて気になったことで
つまり、なんだかんだ言って
決して読みやすい作品ではない、ですよね。
「李歐」はわかりやすいと思うんで
一部ファンのニーズにお応えしやすいのは
むしろあっちですあっちです!
- 作者: 高村薫
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1999/02/08
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そもそも
高村薫を評するときに必ず言われる
読みづらいの正体って何なんでしょう。
文体ですか
語彙ですか
説明が往々にして過剰だからですか
情報が圧縮されて詰め込まれているぶん
読みながら解凍しないといけないからですか
……
個人的には、これらに加えて
「酔ってないひとがこっちの目をまっすぐ見て
ガチで語ってくる」感じが
「読みづらい」というより
「絡みづらい」んじゃないか。
たしかにね、
高村薫の描く世界においては
登場人物ひとりひとりが
うるさいぐらいに(!)
それぞれの個を背負って登場してきます。
書き割り的アクション、リアクションが
徹底して排除されるのは
この作家が
人はそれぞれ違う
自分の基準で相手を量れると思うのは
傲慢である
という信条を常に持ち歩いているからではないか。
あなたと私は
お互いに異なる信念や背景を持ってますね
さあ、じゃあ話そうか、と目を見て迫られて
「絡める」だけの心の準備ができていれば
大丈夫、話し甲斐のある相手ですよ。
でね、そう考えてくると
世の中には
自分と敵しか居ない、と
驚くほど世界を単純化しちゃえるひとがいますけど
そういう人と高村薫の話が
噛みあうわけがないんすよ。
20数年目にしてようやく
作品をエンターテイメントとして吸収できるようになった
世に生きる者として
高村薫原作映画の成功を
心より祈念しております。
there are two Ohimas in Japan (大島弓子と大島真寿美について誰も書いてないのはいかがなものか)
Yumiko Oshima, Masumi Oshima.
Ladies have the same family name, no blood connections.
Yumiko, who has been one of the prominent figure in Japan manga scene since 1970s, is like a Julian Moore meets Jodie Foster. Fame and fortune don't stop her quest for creative instinct.
Masumi, who has the bright future in the field of literary fiction, debuted in 1992 but little known until the turn of the century. Like, say... Anne Hathaway, many people ("mature readers", if I may say so) believe now that she will earn well-deserved praise in no distant future.
Before writing this, I googled and binged, found no one (come on!) had pointed these two Oshimas resemblance. My plan A before that was; admit what they have in common, and then try to distill the Masumi's essence -- thank you for imagining my disappointment.
Hoping a distiller comes later, let's get down on the resemblance of two Oshimas today. More precisely, I'd like to focus entirely on Masumi's early work "Watery Cocoon"(2002).
- 作者: 大島真寿美
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2005/12
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This is a luminous tribute to Yumiko's 1980's works such as "Dream Bug / Sheep Grass"(1983), "Dahlia Cincture"(1985), "Roughly Chopped Carrots"(1985) and "Sister and I; Water pillow, Feather Pillow"(1984).
All those lovely/serious pieces taught me much -- how far the manga can go, beauty of minimalism, enjoyment of solitude, who has been to the end of the earth and back won't triumph that trip, etc., etc.
from "Watery Cocoon"
去年の夏、父が死んだ。
父が死ぬなんて思ってもみなかった。
from "Roughly Chopped Carrots"(1985) twitter.com/unpocketable/s…
— unpocketableさん (@unpocketable) 10月 19, 2012
from "Watery Cocoon"
「うちの息子はこの世じゃなくて、あの世で大きくなってるんだけどね。死んじゃったから」
「え?」
「わたし、あの世のセージが時々見えるの。それはわたしの妄想なのかもしれないけれど、そうやって、わたしの妄想がつづく限り、あの子は、この世に時々来なくちゃならないみたい。解放してあげなくちゃならないのにね」
from "Dahlia Cincture"(1985) twitter.com/unpocketable/s…
— unpocketableさん (@unpocketable) 10月 19, 2012
In some part, you can hear the song of Yumiko's works in the background.
(Oh, you can also SEE that!)
And in some part, needless to say, Masumi's original voice is audible/visible.
「きみがまさに実践しているそれが、すべてだよ。こっちの方がいいな、こっちの方がましだな。そうやって移動していけ。どうやらそれがきみの質らしい。それでいいんだ、それで。すばらしいじゃないか。あたし、ものすごくうれしかった。」
Masumi's girl, here, expressed "It warmed my heart."
On the other hand, a father in the "Roughly Chopped Carrots" never shows this kind of eloquence. Still, you know the aspiration very well via a daughter in the story.
They talk the same thing, from different sides.
- 作者: 大島弓子
- 出版社/メーカー: 白泉社
- 発売日: 1999/06
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我が家の小学4年生のお友だちで第一人称が「ぼく」な女子、Yちゃんのお話
はるかぜちゃんこと春名風花(敬称略)が
朝日新聞の需めに応じて書いた
いじめヨクナイ文章を
各地の小学校の先生が転載して
(たぶん「道徳」の)授業に使っている、と。
その際、原文第一人称が「ぼく」なのは
教育的見地に照らしヨロシクナイと
思われるからか、
執筆者であるはるかぜちゃんには無断で
「わたし」に改変されているらしい、と。
その改変したい気分は理解するけど(←大人か
無断で変えるのはやめてくれないかなあ。
とはるかぜちゃんが言っていたので
http://matome.naver.jp/odai/2134929420487576201
じゃあ「ぼく」をやめたバージョンを
転載可として
どこかに置いておけばいいんじゃね。
と思ったついでに
我が家の小学4年生のお友だちで
第一人称が「ぼく」な女子、
Yちゃんのことを連想しました。
その子がもし自分の子だったら
“女子の一人称が「ぼく」なことで
立つさざなみ”について
どう話すかなあ、と思ったんです。
はるかぜちゃんの「ぼく」呼称は
なんとかいうフィクションの登場人物にあこがれて。
ということだそうですが
Yちゃんの場合、
もうちょっと根は深いところにある。
1~2年生のときの担任の先生とウマが合わず
あまり友達もできず、
いやいや学校に通っていた当時のYちゃん。
唯一、彼女の味方をしてくれていた
保健室の先生がたまたま
ゆったりした口調で話すYちゃんを前に
「あら、のんびりしていいわねー」
ぐらいのことを言ったんですって。
それ以降、彼女は
学校における自分のキャラを「創った」。
そのタイミングで、一人称も
「ぼく」で固定されたんだそうです。
当時7歳。
つまり、素のままの自分を出すことで
傷つくことが多かったのに懲りて
“創造したキャラクター”という殻で
武装している。
その一端が一人称「ぼく」なわけ。
……という事情をふまえれば、
軽々に
「女の子がぼくって言わないよ!」
とは言えませんわね。
テンポが合うんだか、
たぶん最も彼女と仲が良いクラスメートの
ひとりが我が家の4年生で
そのYちゃんの物真似が頻繁に
登場するものだから
いまでは私もYちゃんの真似ができるぐらい。
コツはね、大山のぶ代を0.8倍ぐらい
ゆっくり再生すること。
「えええええええ。
ぼく。そんなこといわれても。
こまるなああ」
……すみません、
ニーズの無い物真似メニューを
提供してしまいました。
(そのYちゃんがうちに遊びに来たら
すごい早口になる、
というエピソードには笑ったんですけども。
「Yちゃん早口なんだね、ってびっくりして
言ったら『あたりまえだよ』って
言ってた」だそうで。結構なこっちゃ)
女の子が
ぼく
と自分を指していうこと
および
それを聞かされる周りの人間の心が
それぞれに抱いている
「常識」でオサマッテいる
水平な状態に動揺を与えること。
について、考えると
西加奈子の「きりこについて」
という物語を思い出しちゃう私。
- 作者: 西加奈子
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2011/10/25
- メディア: 文庫
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前半と後半で、まるで異なる物語が
主人公のきりこという女の子を軸に
展開していくのですが
別に、そのきりこ嬢の一人称が
ぼくなわけではなく
物語中にそういう女の子が出てくるわけでもない。
人が持っている「常識」から外れたコトを
なにかとやってしまう女の子は出てきて
彼女が引き起こす波紋が描かれます。
彼女自身は、
自分の行動がひとの心に投げかける
不穏な影響についてはハナにもかけません
-なぜなら-
彼女は自分が「正しい」と知っているから。
より正確にいうなら
「正しい」か「正しくない」か
判定を下すことができるのは本人だけである、
ということを
彼女が知っているから。
そして、
他者の意向を気にしないことと
それでもなお、
他者の意向を気にかけることの間には
なかなか無視できない違いがあるんだよな。
てなことが、じんわり描かれていて
……って主人公のきりこについて
まるで触れず、恐縮ですが
これ、北上次郎×大森望の対談
「読むのが怖い!Z」で存在を知って
- 作者: 北上次郎,大森望
- 出版社/メーカー: ロッキングオン
- 発売日: 2012/06
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気になって読んだら
(だから最近よ、読んだの)
わー。なんて傑作なんだ!
対談で何て紹介されてたっけな。
と読み返したら
……あれ? これだけ?
ってなった1冊なんですが
北上 僕、猫派じゃなくて犬派なんですよ。
それで、「猫かよ」と思いながら読ん
だら、それまでの西加奈子のタッチ
と、これ、違うんじゃない?
大森 全然違います。だって今回は、猫の
一人称ですからね。わりとあっさりめ
ですね、今までのコテコテ感がなく
て。
北上 ねえ。細部がね、結構いいんですよ。
たとえばさ、猫がどういう生物かとい
うことに猫自身が言及するディテール
があるじゃない。それがすごくおもし
ろい。
大森 うん。猫がね、自己分析するんです
よ。
北上 たとえば、猫の知能指数は、本当は
人間の100倍ぐらい高いのだ、と。
だから、これから何が起きるかも、猫
は全部知ってるんだと。知能指数の
低い人間は知らないらしいと。ホーキ
ング博士が何か発表したときに、人
間たちはびっくりしたらしいけども、
猫は「今頃気づいたのかよ」って言っ
たっていう。もちろん嘘八百なんだけ
ども、ああいうディテールがすごくい
いよね。
ええと、Yちゃんがいつか
「きりこについて」
読むときがあるといいな。
なんならはるかぜちゃんも、うちの子も。
というより
遅かれ早かれ
自分のジェンダーに向き合うときが来る、
すべての女の子たちが
読むといいな。
男子は……おまえらは
40超えたぐらいで読んで
ようやく身にしみるんじゃないか。
そしていろいろ思い返して反省したり
恥ずかしくなったりすればいいよ(=自分
東京ステーションホテルのリニューアルオープンをお祝いする気はある
内田百間読者歴30年なので
ひゃッ先生と縁浅からぬステホテの復活は
そこそこ感慨深い出来事なのですが
ホテルの公式サイトに
「語り継がれるホテル-東京ステーションホテルの歴史-」
てな、あら、ずいぶん上から来たわね。
というノリのテキストを発見しまして。
1915年、東京駅開業の翌年、東京ステーションホテルは客室数58室、宴会場を備えたヨーロッパスタイルのホテルとして開業し壮麗な建築と最先端の設備で、国内外から数々の来賓を迎えました。(略)幾多の文人にも愛され、江戸川乱歩の「怪人二十面相」や内田百間の「阿房列車」では客室が舞台に。昭和30年代には、川端康成や松本清張も滞在し執筆しました。
http://www.tokyostationhotel.jp/about/index02.html
おいちょっと待ってくれ。
「阿房列車」って全部で15編あるんですが
基本は乗り鉄の話なんです。
列車に乗ることが楽しいのであって
そもそも「目的地」すら存在しない。
たとえば大阪まで行くことにする、
着いたらタッチアンドリターンで
夜行列車で帰ってきたいぐらいのところを
それだとかえって高くつくから
仕方なく大阪に1泊します。
しかし帰りは
「帰ってくる」という
「意味のある」行為に過ぎず
「阿房」という崇高な行為ではない、
真の意味で「阿房列車」コンセプトを体現するのは
往路だけなのである。
……というような百鬼園先生の主張は
読者なら当然知っているわけで
さて、そんなふうに
「乗る」ことに無上の価値を見出していた鬼園先生が
東京ステーションホテルの「客室を舞台に」何か書いた?
「阿房列車」で?
おかしいなあ、と思って
あらためて15編引っ張り出してみたんですが
何を指しているのか、ついにわかりませんでした。
東京驛のホテルだから汽車や電車の出這入りが眺められる。私の部屋のある側はホームに近い。冷房の為に閉め切つた窓のカーテンを片寄せると、八重洲口の側のビルに仕切られた狭い空と、その下に列んだ七本か八本のホームの屋根ばかりが見える。その竝行線に列んだ屋根と屋根の間に、這入つて来たり出て行つたりする汽車や電車の上部だけが、するすると辷る様に動いてゐる。一番こちらの窓に近いのは中央線電車のホームである。時時警笛の声は耳に傳はるけれど、その外の物音は何も聞こえない。部屋の中は不思議な位静かである。
-「驛の歩廊の見える窓」(「東海道刈谷駅」から)
私は仕事の都合で、歳末の半月ばかり東京驛の鐡道ホテルに泊まつてゐたが、その間のある晩、ラヂオで米川文子氏の「冬の曲」の放送があることを知つたので、時間の前から食堂に出かけて食事をしながらその番組になるのを待ってゐた。
-「ホテルの冬の曲」(「鬼苑横談」から)
次の年の第二年目には、向うであらかじめその覚悟を決めたらしく、決死隊のボイが出て来て、九時になつても十時になつても澄ましてゐる。遅くなつて済まんな、と云ふと、いえ構ひません、どうぞ御ゆつくり、いつ迄でもと云つた。
さう云ふ風にしてくれ出してから何年目かの三日の晩、例の通り遅くなつて部屋の外へ出たら、明かるいのは今までゐた宴会室だけで、長い長い廊下は真暗がり、ボイが一人走り出して、通つて行く廊下の電気をパチパチと一つづつともして行つた事もある。
-「御慶十年」(「けぶりか浪か」から)
「当日の朝起きられなかつたら、それ迄です。それではそちらもお困りだらうし、私も無責任の様で面白くない。前の晩から出掛けて、驛の階上のステーシヨンホテルへ泊まりませうか」と云つたら、諸君大いによろこんで、是非さう云ふ事にしてくれと云ふ。
しかし又考えて見るに、寝つけない所に寝て、翌朝あつさり起きられるか、どうか疑はしい。矢張り何でも馴らさなければ、事はうまく行かない。祝賀の行事が始まる五六日前からステーションホテルへ這ひ込み、毎晩寝て、毎朝起きる順序を繰り返してゐれば大丈夫かも知れない。それがいいに違ひないけれど、さう云ふ事をすれば、先方も迷惑であり、私だつて迷惑である、だれが金を拂ふか知らないが、私は拂ひたくない。鉄道の方で引き受けて、拂つたお金が餘り高かつた為に、運賃値上げの原因なぞになつては、人人に合はせる顔がない。まあよしておきませう。
-「時は変改す」(「無伴奏」から)
や、こういう具合に
いわゆる百間随筆で
東京ステーションホテルを題材にした話は複数あるんです。
だけど「阿房列車」には無いんじゃないだろうか。
と、もやもやしておりまして、結果なんだか
めでたさも中ぐらいなりステンション。
ローリングストーン誌が「シド・バレッ度」なる尺度を提示していたのでその日本作家版を考えましたよ
ピンク・フロイドというバンドの名前はご存じですか。
その創立メンバーのひとりに
シド・バレットという伝説のミュージシャンがいまして
溢れる才能と引き換えに、ロック界最長といわれる隠遁生活を
40年ほど(……)送った末
去る2006年、60歳でこの世を去りました。
んでね、何を思ったかローリングストーン誌が今朝
We rated 13 disappearing rock stars
on a scale of 0-10 "Barretts"
ってツイートしててさ
ロック・ミュージシャンの隠遁度合いを調べて
シド・バレッ度(←温「度」のドではなく法「度」のトと読むんだ諸君!)
で表してみたYO! ぐらいの意味だと思うんですけど
http://www.rollingstone.com/music/pictures/13-rock-stars-who-disappeared-20120926
ビリー・ジョエルがシド・バレッ度0.5
(そう言われればオリジナルアルバムはもう19年もご無沙汰なのね)
ジョニ・ミッチェルが4
デビッド・ボウイが6
云々、計13人のミュージシャンを俎上にあげていて
(ちなみに13人目はクイーンのあの人)
閃いたの、俺。
これは日本のアイドル界に置き換えると
隠遁度小=1恵
隠遁度大=100恵
ってことですよ。
でも
山口百恵が100恵だとして
木之内みどりが70恵ぐらいで
高井麻巳子が50恵
って考えていっても
あんまり自分のなかでコミ上げてくる何かが無かったので
日本の作家界での隠遁度に独自単位をつけてみる。
という企画に急遽変更しました。
その単位とは!
高城高
ええ、「函館水上警察」で40年ぶりといわれる復活を遂げた
作家の名前そのものなのですが
つまり、隠遁度の最高峰の単位を「高城高」と定めよう、
そう思ったんです。
勝手に。
誰の許しも得ずね。
……。
続くのは当然「中城中」でしょ?
具体的にいうと、23年ぶりに作品発表した
斎藤惇夫(「哲夫の春休み」)。あと
SF作家としての山野浩一も
ここにカテゴライズしていいんじゃないだろうか。
まあ新作を刊行したわけではないんですが
傑作選が28年目に出た、というのは
快挙であることは間違いない。
最も隠遁度が低い「小城小」が
原尞「愚か者死すべし」(9年ぶり)
佐々木俊介「模像殺人事件」(9年ぶり)
佐藤正午「5」(7年ぶり)
あたりですか。
高城高はもちろん、
中城中とくらべても
彼らがまだまだ青いコトはわかりますね。
(ここに横山秀夫が間もなく加わる。はず。7年ぶりにね)
って考えてたら
飯嶋和一の「出星前夜」
- 作者: 飯嶋和一
- 出版社/メーカー: 小学館
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からのインターバルは、まだ4年か。
よゆーよゆー。
よゆーで待ってっから。
そう思えてきたのが、今回エントリ最大の収穫でした。てへぺろ。
日本語を英訳してシャレオツ計画。のハードルは高く険しい。または「ブラック・ジャック」の英訳はかっこいいっす
新刊出ると必ず読んじゃう作家の未読短編集を買ったら
作品のクオリティーとは別のところが気になりました。
収められている短編それぞれの作品タイトルが
装丁的な意味合いで(=深い意図は感じられない、の意)
英訳されていたのですが、その訳出が……
ひとことで言うと「センスねえなあ」というレベルで
がっかりしたんです。
さてここでまず問うべきは
そう、
「英語のセンスを云々できるほど
オノレは英語に堪能なんか」。
うーん?
ミラン・クンデラの小説はぜんぶ英訳で読んだけど
(クンデラは最初の数作はチェコ語、
その後はフランス語で執筆しているので
あくまでも“英語に訳された”というところがポイント)
それは日本語訳が未刊行だった時期に
たまたまアメリカに居た、
という環境だったから。
ローラ・ヒレンブラントの「シービスケット」は
原書がNYタイムズのベストセラーになったころ
競馬クラスタとして、どうしても読みたくなったので
英語で読んだ。
云々。
・英語なら読めます、といえる気はするけど
・そこにはなんらかのモチベーションが必須で
・しかも「そういえばあれもういっぺん読もう」と思える作品でも
英語かー。とテンション下がって
再読のハードルに英語がなるぐらいには、おら正直者だで
ひとつだけ、自信をもって言えることがあるとすれば
日本語だろうと英語だろうと
わ、この文章好きー。
げ、この文章嫌いー。
というセンサーは働きます、ということ。
だから、東京創元社の英訳は好きだ。
(泡坂妻夫の「亜愛一郎」シリーズを見よ!)
「ブラック・ジャック」の各話についていた英訳は良かった。
……とかいうときと同じレベルで
今回読んだ作家○○の作品××の英訳はヨクナイ、
と申し上げたかったんです。
作家が自作を世に問う際
「タイトルなんて記号だから、どうでもいいんですよ実際」
とか言っちゃうひとも、なかにはいるかもしれませんが
それはまあポーズですよね。
少なくとも関係者全員がそんなスタンスでいる作品は無い、
と言いたい。なぜなら作品を世に送り出す共犯者として
編集者が介在しているはずだから。
(セルフパブリッシングの著者ならなおさら
そんな考えはしないと思う)
というところで
以下は
手塚治虫公式サイト
を参照して作成した
余談。
1 | 医者はどこだ! | "I need a doctor!" |
2 | 海のストレンジャー | The Dolphin Savior |
3 | ミユキとベン | Miyuki and Ben |
4 | アナフィラキシー | Anaphylaxis |
5 | 人間鳥 | Bird Man |
6 | 雪の夜ばなし | Tale of a Snowy Night |
7 | 海賊の腕 | The Pirate's Arm |
8 | とざされた記憶 | Lost Memories |
9 | ふたりの修二 | Two Shujis |
10 | 鬼子母神の息子 | Son of Siva |
11 | ナダレ | Nadare the Deer |
12 | 畸形嚢種 | The Teratogenous Cystoma |
13 | ピノコ愛してる | Pinoko Loves You |
14 | 後遺症 | Aftereffects |
15 | ダーティー・ジャック | The Heroine of the Tunnel |
16 | ピノコ再び | Pinoko Refuses to Leave Home |
17 | 灰色の館 | The Gray Mansion |
18 | 二度死んだ少年 | Dead Twice |
19 | 木の芽 | Leaf Buds |
20 | 発作 | Paroxysm |
21 | その子を殺すな! | Save the Baby! |
22 | 血がとまらない | Won't Stop Bleeding |
23 | 誘拐 | Kidnap |
24 | 万引犬 | Shoplifting Dog |
25 | 灰とダイヤモンド | Ashes and Diamonds |
26 | パク船長 | Captain Pac |
27 | 白葉さま | Shiraha-sama |
28 | 指 | Finger |
29 | 時には真珠のように | Sometimes Like a Pearl |
30 | ピノコ生きてる | Pinoko is Still Alive |
31 | 化身 | Tommy |
32 | 閉ざされた三人 | Trapped in an Elevator |
33 | 獅子面病 | The Pug-Nosed Patient |
34 | ある教師と生徒 | Teacher and Pupil |
35 | なにかが山を… | Mad Dog |
36 | しずむ女 | Sinking Woman |
37 | 2人のジャン | The Siamese Twins |
38 | ピノコ還る! | Pinoko Returns! |
39 | 純華飯店 | Junka Restaurant |
40 | 焼け焦げた人形 | A Father's Gift |
41 | 植物人間 | Vegetable |
42 | 赤ちゃんのバラード | Infant's Ballad |
43 | 誤診 | Misdiagnosis |
44 | 目撃者 | Eyewitness |
45 | 白いライオン | The White Lion |
46 | 恐怖菌(原題:死に神の化身) | Terror Germ (Original Title: Incarnate of Death) |
47 | 光る目 | The Gleaming Eyes |
48 | 電話が三度なった | The Phone Rings Three Times |
49 | 二つの愛 | Two Loves |
50 | めぐり会い | The Encounter |
51 | ちぢむ!! | Shrinking Bodies!! |
52 | 人面瘡 | The Carbuncle |
53 | はるかなる国から | Fame |
54 | アリの足 | The Leg of an Ant |
55 | ストラディバリウス | Stradivarius |
56 | ふたりの黒い医者 | Black Mirror Image |
57 | ブラック・クィーン | Black Queen |
58 | 快楽の座 | The Seat of Pleasure |
59 | にいちゃんをかえせ!! | I Want My Brother Back! |
60 | コルシカの兄弟 | The Corsican Brothers |
61 | 針 | The Needle |
62 | ネコと庄造と | The Cat and Shozo |
63 | オオカミ少女 | Wolf Girl |
64 | おまえが犯人だ(原題:おまえが犯人だ!!) | You Did It! (Original Title: You are the Criminal!) |
65 | のろわれた手術(オペ) | The Cursed Operation |
66 | 火と灰の中 | Amidst Fire and Ashes |
67 | ふたりのピノコ(原題:緑柱石) | Two Pinokos (Original Title: Beryl) |
68 | えらばれたマスク | The Most Beautiful Woman in the World |
69 | ガス | Poison Capsule |
70 | からだが石に… | The Body Turns to Stone |
71 | けいれん | Pneumothorax Operation |
72 | イレズミの男 | The Man with a Tattoo |
73 | こっぱみじん | Broken into Little Pieces |
74 | なんという舌 | Abacus Without Arms |
75 | スター誕生 | A Star is Born |
76 | 水頭症 | Hydrocephalus |
77 | ドラキュラに捧ぐ | Dedicated to Vampires |
78 | 地下壕にて | In the Underground Shelter |
79 | 弁があった! | The Killing Doctor |
80 | ピノコ・ラブストーリー | Pinoko's Love Story |
81 | 宝島 | Treasure Island |
82 | ハローCQ | Hello, CQ |
83 | 地下水道 | Rats in a Sewer |
84 | デベソの達 | The Boy with The Belly |
85 | かりそめの愛を | Temporary Love |
86 | 絵が死んでいる! | Go Gxan's Painting |
87 | 満月病 | Full Moon Disease |
88 | 報復 | Revenge |
89 | おばあちゃん | Grandma |
90 | シャチの詩(うた) | Friendship with a Killer Whale |
91 | 病院ジャック | Hospital Jacking |
92 | 奇胎 | A Baby in A Shell |
93 | 水とあくたれ | A Perverse Swimmer |
94 | サギ師志願 | Swindler Apprentice |
95 | 魔王大尉(原題:悪魔) | Captain Devil (Original Title: The Devil) |
96 | 道すがら | On the Way |
97 | 幸運な男 | A Lucky Man |
98 | 犬のささやき | Dearest Voice |
99 | 友よいずこ | Where are You, My Friend? |
100 | 古和医院 | Mountain Doctor |
101 | 侵略者(インベーダー) | Invaders From Space |
102 | 奇妙な関係 | Strange Relationship |
103 | 帰ってきたあいつ | The Guy Who Came Back |
104 | ピノコ西へ行く | Pinoko Goes West |
105 | 雪の訪問者 | Memories of the Operating Room |
106 | 浦島太郎 | Urashima Taro |
107 | 小さな悪魔 | The Little Devil |
108 | クマ | The Bear |
109 | 死者との対話 | Conversation with a Dead Person |
110 | デカの心臓 | Gentle Giant |
111 | タイムアウト | Race Against Time |
112 | 望郷 | Homesick |
113 | もう一人のJ | Another Jack |
114 | U-18は知っていた | U-18 Knew It |
115 | ペンをすてろ! | The Girl Cartoonist |
116 | 不発弾 | Dud Bomb |
117 | ハッスルピノコ | Hassle Pinoko |
118 | 未来への贈りもの | Waiting for the Future |
119 | 白い目 | Jealousy |
120 | ハリケーン | Hurricane |
121 | 悲鳴 | The Girl Announcer |
122 | 曇り後晴れ | Cloudy, Later Fair |
123 | 3度目の正直 | Never Give Up |
124 | ディンゴ | Dingo |
125 | きみのミスだ! | It's Your Mistake! |
126 | 老人と木 | The Old Man and the Tree |
127 | 座頭医師 | The Blind Doctor of Acupuncture |
128 | 執念 | Devotion to Medicine |
129 | 最後に残る者 | The Person Who Remains at the End |
130 | 殺しがやってくる | A Killer Visits |
131 | 霧 | Fog |
132 | 青い恐怖 | Blue Terror |
133 | 研修医たち | The Medical Interns |
134 | てるてる坊主 | Teruteru Bozu |
135 | あるスターの死 | Death of a Movie Star |
136 | 夜明けのできごと | A Happening at Dawn |
137 | 戦場が原のゴリベエ | The Milk Monkey |
138 | 震動 | Vibrations |
139 | きたるべきチャンス | Development of Cancer Treatment |
140 | 魔女裁判 | Witch Trial |
141 | 畸形嚢腫パート2 | The Teratogenous Cystoma Part 2 |
142 | 湯治場の2人 | Death of Hyojisai |
143 | 盗難 | Burglary |
144 | 空からきた子ども | Child from the Sky |
145 | 金!金!金! | Money! Money! Money! |
146 | 霊のいる風景 | Operation of the Spirit |
147 | 99.9パーセントの水 (原題:限りなく透明に近い水) |
99.9% Water (Original Title: Ultimately Transparent Water) |
148 | 昭和新山 | New Volcano |
149 | 落としもの | Lost Money |
150 | やり残しの家 | The Unfinished House |
151 | 激流 | The 18th Child |
152 | ホスピタル | Hospital |
153 | 約束 | Promise |
154 | ある監督の記録 | There Were Two Films (Original Title: Record of A Director) |
155 | 失われた青春 | Lost Youth |
156 | コマドリと少年 | The Robin and the Boy |
157 | 音楽のある風景 | A Surgeon Lives for Music |
158 | B・J入院す | Black Jack is Hospitalized |
159 | 不死鳥 | The Phoenix |
160 | お医者さんごっこ | Fake Doctor |
161 | 白い正義 | Black and White |
162 | 上と下 | Blood Connection |
163 | 気が弱いシラノ | Weak-willed Shirano |
164 | 本間血腫 | Honma Hematoma |
165 | 勘当息子 | The Disowned Son |
166 | おとずれた思い出 | Visited Memories |
167 | リンチ | Lynching |
168 | 春一番 | The First Storm in the Spring |
169 | 三者三様 | Three Men, Three Minds |
170 | モルモット | Guinea Pig |
171 | 助っ人 | Black Jack Helps a Doctor |
172 | 壁 | Wall |
173 | 命のきずな | Days of Vanity |
174 | あつい夜 | Hot Night |
175 | 身の代金 | The Kidnapper and the Kidnapped |
176 | 闇時計 | An Internal Clock |
177 | 信号 | The Language of Breath |
178 | 死への一時間 | One Hour before Death |
179 | 鯨にのまれた男 | The Men Swallowed by a Whale |
180 | 土砂降り(原題:メス) | Woman Doctor Falls in Love with Black Jack (Original Title: Surgical Knife) |
181 | 土砂降り | Woman Doctor Falls in Love with Black Jack |
182 | 通り魔 | Phantom Killer |
183 | ご意見無用 | The Way to Die |
184 | おとうと | Brotherly Love |
185 | 猫上家の人々 | The People of the Nekogami Family |
186 | 六等星 | Star, Magnitude Six |
187 | アヴィナの島 | Island of Avina |
188 | キモダメシ | KIMODAMESHI |
189 | 肩書き | Title |
190 | 銃創 | Bullet Wound |
191 | 一ぴきだけの丘 | Home to the Hills |
192 | 小うるさい自殺者 | Attempted Suicide |
193 | 命を生ける | Life of the Grand Master of Flower Arrangement |
194 | ある老婆の思い出 | Reminiscences of an Old Woman |
195 | 二人三脚 | Higeoyaji and his Son |
196 | 二人目がいた | The Second Person |
197 | 腫瘍狩り | Cancer Hunter |
198 | ゴーストタウンの流れ者 | Outlaw in a Ghost Town |
199 | 浮世風呂 | A Public Bath |
200 | 終電車 | The Last Train |
201 | すりかえ | The Changeling |
202 | 助け合い | Black Jack Saves his Savior |
203 | 20年目の暗示 | Suggestion in the 20th Year |
204 | がめつい同士 | Double Hold |
205 | 消えさった音 | Noise Operation |
206 | 海は恋のかおり | Love Call from the Sea |
207 | 山猫少年 | Wildcat Boy |
208 | しめくくり | Death of an Author |
209 | ブラック・ジャック病 | Black Jack Syndrome |
210 | 落下物 | Falling Object |
211 | 家出を拾った日 | The Boy Who Ran Away from Home |
212 | 未知への挑戦 | Operating on a Man from Space |
213 | ある女の場合 | The Case of a Woman |
214 | 人形と警官 | The Policeman and Mannequin |
215 | 鳥たちと野郎ども | Birds to the Rescue |
216 | 山小屋の一夜 | The Suicide Aspirant |
217 | 裏目 | A Plot to Film Black Jack Performing an Operation |
218 | コレラさわぎ | A Cholera Scare |
219 | 山手線の哲 | Light Fingers |
220 | 戦争はなおも続く | The War Never Ends |
221 | カプセルをはく男 | The Honorable Crime |
222 | 黒潮号メモ | Tenacious Black Jack |
223 | ピノコ・ミステリー | Pinoko's Mystery |
224 | もらい水 | Mother Love |
225 | 密室の少年 | Psychic Powers from a Closed Room |
226 | 動けソロモン | Animation Program Solomon |
227 | ポケットモンキー | Pocket Monkey |
228 | 刻印 | Carved seal |
229 | 台風一過 | After the Typhoon Goes |
230 | 人生という名のSL | Call It Life |
231 | 身代わり | Sacrifice |
232 | 復しゅうこそわが命 | Revenge |
233 | 虚像 | Class Reunion |
234 | 骨肉 | Blood Relations |
235 | 再会 | Accident |
236 | 話し合い | Talk |
237 | されどいつわりの日々 | A Lie Lived |
238 | B・Jそっくり | Just Like Black Jack |
239 | 過ぎさりし一瞬 | A Passed Moment |
240 | 流れ作業 | Assembly Line Care |
241 | 短指症 | Short Finger Syndrome |
242 | 笑い上戸 | The Power of Laughter |
243 | オペの順番 | A Question of Priorities |
なかには日本語直訳のものもありますが
-というか、そっちが大半か-
(18)「二度死んだ少年」"Dead Twice"
というタイトルを見たら
死刑が確定している瀕死の少年を手術で完治させた
ブラック・ジャックの最後のセリフが
ばっと脳裏に浮かんで感慨深いし
(日本語タイトル以上に英訳のほうが
BJのセリフをほうふつさせるん)
(230)「人生という名のSL」ってこれ
松本零士への嫉妬で書いたんですか、な
小品ですけど
"Call It Life"って訳されたことで
ずいぶんプレステージ上がってるよな、とか
いい仕事だなあ、と思うんですよねえ。
ええ、何度も重ねて申し上げますけど
もちろん個人的な感想にすぎないんです。
それにひきかえ
今回読んだ作家○○の作品××の英語は。
と固有名詞をあげて
「ほら! こんなにドイヒー」
「機械翻訳かよ!」
などと追求する気になれないのは
作品にとっては真の意味で瑕瑾にすぎないと思う、
英訳をあげつらうことで、作品そのものの悪口だけが
(万が一)
駿足で駆け巡っちゃったりしたら読者として不本意だから。
(作品は相変わらず安定の○○先生クオリティーでしたよ)
事実として「英語まつがってるよ」なら別だけど
「センス悪いよ」ってのは
あくまでも私個人の好みでしかない、アヤフヤなものですし。
まあ、ブラック・ジャックの各話英訳はステキだよね。
っていう主旨のエントリーってことでよろしいんじゃないでしょーか。
「これ以上、おもしろい小説があったら教えてください」?
書店店頭で見かけた
某書籍の帯に発見したことば
「これ以上、おもしろい小説があったら教えてください」
ムシのいどころのせいか、猛烈に引っかかったので
しばらく帯をにらみつけてしまいました。
挙句、日記にも書いちゃう。
・洒落でんがな。笑って見逃してえな。というには確信犯臭がプンプン
・というか、真剣にそう信じて書いたとしか思えない
・無知という名の罪でおまえは死刑だ
仮によ。
仮に、その本が
史上最強、唯一無二、
絶対価値としての“最高の面白さ”を持っていたとしても、ですよ。
そんな文句を帯に書くことができるのは
「恥知らず王」以外の誰にも出来まい。
しかし。
と、さらに店頭でその帯をにらみつけたまま、
私が思ったのは
・意外に売れちゃってんだろうなこれ(調べたら「シリーズ30万部!」だそう)
・万一、この帯の文句を信じちゃうような若者が出来ちゃったらどーすんの
・ひとは
自分の信じたいことしか信じないし
自分が理解できるコトやモノに囲まれた世界でのみ、生きたがる
・そして、この帯は、そうした世界観をヨシとする−だけでなく、
その世界観に馴染めない人間の存在そのものを否定し、排除することまでをも
意味している
・どう考えても、このクソ宣伝文句を考えた当人と
さらにそれを流通させている版元は
死刑だ
・という判決を、裁判員のなかで主張するのが
もし私ひとりだったらどうしよう
……ってこれ、3年半前(=裁判員制度が導入されたころ)に
某所で書いた日記なんですけど
エラいもんで
あの時イラッとした作品がなんのことだか
まるでわかんなくなっております(!)
母さん、今日もにっぽんは平和です。