編集者が編集するのは本だけじゃない! ○○もだ!

ウェブも電子書籍もDVDもCDも編集しちゃうよでもいちばん仕事多いのはけっきょく紙

スポーツ小説の皮をかぶった……なんだろう、エンターテイメント小説か

3年前、読書界が
ランナー小説ブームにわいていたことをご記憶でしょうか。

単行本がどれだけ話題になろうとも
文庫落ちまでじっと待つ。が基本の私、
いらいらしながらその様子を見ていたわけですが
桂望実「Run! Run! Run!」も文庫化されたので
ようやく、当時話題になっていた3作品とも
読むことができました。

「Run Run Run」(文藝春秋)
初出:別冊文藝春秋2005年11月号〜2006年7月号
単行本:2006/11¥1,500
文庫:2009/7 ¥620

「一瞬の風になれ」(講談社)全3巻
初出:単行本書き下ろし 2006/8、/9、/10 各巻¥1,470、1,470、1,575
文庫:2009/7 各巻¥520、580、780

「風が強く吹いている」(新潮社)
初出:単行本書き下ろし2006/9 ¥1,890
文庫:2009/6 ¥860


版元は異なるものの
単行本から文庫化までの間には
判で押したように3年弱のインターバルがあって
文庫本の価格も単行本の4割近辺でおおむね共通、という
これがいわゆる「業界の慣習」ってやつ。

つまり
水揚げされた新鮮な魚を新鮮なうちに食べたければ
倍以上の対価を払ってね、
という「トレトレ価格」=単行本の値段
とでも申しましょうか。

消費者としてはうっかり忘れがちですが
・文芸賞レースの基準は単行本にあること
・執筆者の生活の基盤も単行本の定価に準拠していること
という2点がある以上
この「トレトレ単行本」の売り上げ前提があってはじめて
「鮮度落ち文庫」の価格が成立している、といえて
つまりナンです、単行本を購入する読者の原資が
もろもろの読書界隈を支えている、といってよいのではないかと。

私自身は、なんだかんだいっても
単行本2冊買うよりは文庫本5冊買っちゃう派なんで
単行本を購入いただいている皆様のおかげでへへー。
というところなんですが……ああ、「Run! Run! Run!」の話だった。

これ、まぎれもなく物語のピークは
箱根駅伝なのですが
「一瞬の〜」「〜強く吹いている」風2作と比較すると
スポーツものじゃありません、という前提で読んでこそ
作品の面白さを100%味わえる、というところでして
ううむ、その意味では風2作品と並べるよりは
桂望実シリーズとして「県庁の星」との併売が順当な感じ。

スポーツ小説の映像化って
肝心の“競技”部分で心を揺さぶる力が
文章に比べると映像では弱いので
傑作は生まれづらいのですが
逆に、こういう作品なら映像化しても面白いのでは、
と思いました。
(主人公の“今”をどう撮るか、は結構な難題ではあるけれど)